妖精の輪
 

キノコによって草地などにできる輪……
菌環と呼ばれるそれは、妖精が踊った跡だと伝えられている。

彼らは、どこへいったのか……

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「こんばんは〜。」
「こんばんは〜、って、すごいじゃない、そのドレス!」
「そう?似合ってる?」
「もちろん!白くてさ、輝いててさ、きれいでさ。」
「でもあなたの薄い萌葱色も落ち着いた感じで素敵よ。」
「せっかくの舞踏会だからね〜。」
「うん!」
「ほらほら、みんな向こうでもう踊ってるんだから!」
「あ、もうそんな時間なの?」
「おめかししてて遅くなっちゃったのね、ほらこっち、早く!」
「急かさないでよ!行くってば!」
「早く〜!」

踊る気持ちで、彼らは広場にこう書いた。
『夢奏でる春の祭典』

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「朝からさわがしいね、何があったの?」
「……また見えない光に貫かれた男の子が消えちゃったんだって。」
「え……また……今月もう4人目よ。」
「うん……ほかにも、手や足の片方を消された人もいるみたい。」
「で、どこで?」
「またあそこ。『巨人たち』が最近作った大きくて白い山の近く。」
「ほかの白い山とどう違うんだろうね。」
「ほかは大きくて高い筒から黒いつぶを吐き出すでしょ?」
「わたしたちの体をこんな色にしちゃったあのつぶのことでしょ……」
「でも、それは吐き出さないの。」
「その代わりに、見えない光を……」
「で、さ。その山には、こんな図形が書いてあるんだって。」
「どんなの?」
「……えーっと……こう。」

見よう見まねで、彼女は地面にこう書いた。
『原子力発電所』

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「所長……また妖精の人工授精は失敗でした。」
「うむ……条件は整っていたはずだが……自然の摂理はどうしようもない。」
「せっかく中国の奥地からまだ元気なメスを手に入れたというのに……」
「もともと、無理だったんだよ。」
「と言いますと?」
「ほら、体色が黒くすすよごれたような色をしていただろう。」
「確かに……それに足や手も奇形でした。」
「自然はいつもよりよい選択をする。進化がいきづまった生物は自然と絶滅するんだ。」
「というと……あの色や奇形は進化のいきづまりを示すものだと。」
「そういうことだよ。」
「なるほど……それなら理解できます、所長。」
「……最後の一体は、極低温で保存しておく。いずれは増殖させる方法も見つかるだろう。」
「わかりました。」

慣れた手つきで、彼はラベルにこう書いた。
『保存用妖精試料』

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彼らは、どこへいったのか……

 

1998.12.4/SYSTEM-E投稿作品


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