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技術の功罪
 

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◆4th.ROUTINE/技術革新

 事件から丸1日経つと、さすがに現場周辺も落ち着きを取り戻してくる。
 昨日は丸1日中、消滅した川原のことを憂えるヒマすらないほどに報道陣がごった返した。たいていは『安全管理に問題はなかったのか』『単なる操作ミス?』などと、内容がスッカラカンのものばかりで、たまには別の質問もしろと怒り散らしたくらいだ。
 そんなこんなで徹夜で一晩明かした智美は、事務所でちょうど昼飯を食い終わっていた。しかも『川原のことがもう気になって、気になって、ごはんつぶものどに通らないわ……』と言いながらだ。
 こいつ、本当に川原のこと心配してるんだろうな?
 「全く、マスコミっていっつもああなんだからっ……あたしが川原と恋愛関係にあったのか、なんて、あんなときに聞くもんじゃないでしょーがっ。」
 バカな記者もいたもんだ。
 ついでに言うなら、川原自身は姉の摩耶に傾きかけてるぞ。気をつけろよ。
 「それに、安全管理とか責任とかって、ぐーぜんで起きた問題になんでそんなのがからんでくるっていうのよ。川原がそれを承知で勝手にセクター6につっこんでったんだから、そんなの関係ないじゃないっ。」
 酒すらも入っていないにもかかわらず、近くの鏡に向けて箸を突き付けながら一心不乱に独り言を言い続ける。これはかなりブキミだ、というより、一度精神科医にでも……
 「もー、これ以上押し寄せて来たら、今度こそ怒り散らして……」
っごんっ………。
 その時、微妙だが確かな揺れが一発、事務所を襲った。昼飯のウドンの鉢に残る汁の水面がぶらぶらと揺れている。
 「……と言っても、その前にまたまた事件か……もう。」
 どうも浮かない表情でしぶしぶ立ち上がり、坑内エレベーターへと向かう。

……………

ちんっ。
 階数表示が7を示し、エレベーターは止まる。すぐ先のセクター6の隔壁は、消滅事件以来開け放したまま。ここは今では7階ごと立入禁止になっているはずである。
 「んもうっ……今度は何、もしかして温泉でも沸いたのかしらっ……」
 ゆっくり開いていくドアの前に、何かを背負った人の姿がぼんやり見える。
 「……温泉沸くより、すごいことだわっ…………おめでと。お帰りなさい。」
 「ただいま。」
 説明はもういらないだろう。川原である。
 「というわけで早速だけど、新開発の件はどこまで進んだ?」
 「え、あ、うん、あれのことね。設計図読んだけど、スンバラシイ出来よ。あれだけのものならあたしが言った通りのスペックの感情回路は確実ね。」
 あんまりにも早速で戸惑ったが、喜んで報告する智美。さっさと図面だけは読み終えていたのである。
 「しっかし、こいつ重いな…宝玉入ったせいか?…いいかげんキツいんだから起きろって。ほれ、ほれ。」
 「うっ……ん……」
 転送の過負荷で気を失っていたのか、今になってやっと摩耶は目を覚ました。
 「ありゃりゃ、もしかして、試作品はもう起動済み?」
 とぼけたような顔をしながら、智美。
 「いやまあ、しかし意外だったなぁ。思考ルーチンのプログラムだけじゃなくて、生身の人間まで封じられるようになってるとは。」
 「……え?…」
 さっきまでの笑顔が、一瞬にして凍りついた。
 「ま、紹介するまでもないけれど、一応。こいつは、おまえの姉、葛野摩耶だ。」

……………

 「だいたい事情は飲み込めたわ。で、問題は、あたしに何が言いたいのかよ。」
 智美の独り言の件や、摩耶の合言葉の趣味はさておき、性格やしゃべり方までよく似た2人ではあったが、派閥についてはまったく逆。
 「……オレに聞くなよ、おい。」
 「誰も川原に聞いてないって。ついでに聞くなら、こっちにいったい何しにきたわけ。」
 静かに座ったままの摩耶に、智美はつっかかった。
 「別に?」
 「別に……って、まさか観光じゃあるまいし。いちいちこっちでも反対運動をするならムダよ。もう1年半前にあたしが魔力の技術を提供して以来、社会規模で魔力機械が必要になってるんだから。」
 実のところ、智美こそが、転換宝玉の技術を別世界から伝えたのだった……1年半前に。
 「何と言おうと、わたしが来た理由はただの観光と成りゆき。気が向いただけ。」
 摩耶もさるものである。姉だけあって、数年分だが人生の経験量が違う。かたや多数派の技術畑出身、かたや少数派のドロ沼出身。
 「あたしを止めに来たとか。」
 「ならわたしは今頃設計図を持ってどっかの崖から飛び降りてるわよ。」
 「それじゃ、何だっていうのよ。」
 智美も負けじと必死で食い下がる。
 「さっきの理由じゃ不満?観光だって、立派な理由と思うけどなぁ…」
 「不満に決まってるじゃない。本当の理由は何よ!?」
 「んじゃ、智美の顔を見に来た、ってそんなとこかな。残念ながらわたしの元の体はどっかへいっちゃってるけど、あんたもこれでわたしに会えたわけだしね。」
 摩耶優勢のまま、このままじゃ話は延々平行線。こんなのをいちいち書いてたら年が暮れるので、早めに終わっていただきたい。
 こういう所で、そろそろ川原のツッコミが効くのである。
 「なあ。バカらしいからやめにしないか?それよりオレ、腹減って腹減って。出前2人分ぐらいとってくれ。それから、すぐ和歌山本社に戻る飛行機を予約してくれ。ああ、もち、3人分だぞ。再会記念でエグゼクティヴ・シートでも奮発してやるからさ。」
 彼にとっては富士山の上に移設した清水の舞台から540回飛び降りたほどの出費である。
 「あたしは姉ちゃんから理由を聞き出さないといけないのにっ!」
 「あーあ、そんなのほかしちまえ。あの図面は持ってるな?このとおり、試作品は文句なしに試験起動を済ませたわけだ。ならどうする?」
 「どうする……って……量産型の開発……」
 「そういうことだ。すまんが2人で手分けして、新しい図面を引き直してくれ。こっちは細かい部品の調整とコストダウン関連をどうにかするからな。いつものとおりだ。分かってるよな、智美?」
 しかし、どうやらよほどおなかがすいていたらしく、川原は素早く電話を分捕って、一番近い(それでも知床の奥地だからめちゃくちゃ遠いが)食堂に出前の注文をかける。
 「あ、もしもし、『お竹さんの大衆食堂』?大盛り中華そば3つ。ああ。全部1人で食う。何?食い過ぎだ?ほっとけそんなの。めちゃくちゃ急いでくれ。オレの胃はあと30分ももたんぞっ。それじゃ。」
 どうもすっぽかされた感じで一人呆然と立つ智美をほおって、川原は事務所の外へ空気を吸いに出た。
 北海道の空気は、どの季節でも新鮮に冷たい。
 「…どういうつもりよ。」
 追いかけて来ていた摩耶が、川原のそばに寄り、小声で話しかける。
 「さあね。」
 「それに、わたしの疑問、ぜんっぜん解決できてないじゃない。」
 「疑問って?」
 「科学技術と人間と、どっちが大事か。」
 「……突然、難しいこと言いやがる……」
 川原は、申し訳なさそうに頭をぽりぽりと掻いた。
 「だいたいさ、技術が進歩するたびに、犯罪とか増えてるじゃない……銃が発明された時だって、あたしたちみたいに自分自身を機械化する技術が開発された時だって。何だかさ……」
 「……もしかして、それ、新手の手の込んだギャグか??」
 「ギャグじゃないわよっ!!」
 川原のフザけた言動に、摩耶は青筋を立てる。
 「……答えて、何でもいいから……」
 「……うーん……ま、つまりオレは技術屋だけど、技術畑はあんまり好きじゃない、そんなとこかな。」
 意味すら取れない、まったく脈絡のないことを彼は言う。
 「……自分で考え直してみればいいじゃないか。散々にひどい生活をしてきたんだろうから、その分あの分からず屋の智美よりは理解が早いだろ。」
 「……ま、それもそうよね。」
 なにか心に決めた様子で、摩耶は一度上を見上げる。
 昼下がりの太陽が、眩しい。
 「それより、飛行機はエコノミーでいいから、ぱーっとパーティーでも開かない?会社には技術屋さんとかもたくさんいるんでしょ?ね、ぱーっと、ぱーっと。」
 「な、おい。オレはそんな財力ないし、それに自分の起動記念と、自分の再会記念にそれかよ。」
 「え、そうだっけ?起動記念?あ、そういやわたし、今は魔力機械なんだっけ。うーん。そーすると、量産型はわたしの子供みたいなもんか。名前考えないとね。えーっと……どうする?」
 川原は呆れ返った、というより、ぽかんと口を開けたままフリーズしてしまった。
 しかもそのうえ、そろそろ緊迫し始める川原の財政問題にさらに追い打ちをかけたのが、いつのまにか立ち直っていた智美のこの言葉だった。
 「ねぇーっ、あしたの早朝便のエグゼクティヴ、予約してもらったからーっ!」
 「っげーっ!!オレそんなにお金ねーぞーっ!」
 「だって、いいって言ったのあんたじゃないっ!!男らしくここはフンパツよっ!」
 「…な、おまえの妹だろっ、摩耶。あいつにどうにか言って…」
 「うん。男ならフンパツよっ。」
 「……げ。」
 技術がどうとかという疑問より、今の彼にはまず、逼迫した財政をどう立て直すかに焦点を置き、大改革を実行する必要があった。
 すなわち、具体的に言うならば。
 これから次の給料日まで、彼の食事は、金欠の王道、カップラーメンである。
 「なんだよちくしょう、姉が来てもう少しマシになるかなと思ったけど、単に騒音発生装置がモノラルからステレオ重低音になっただけじゃないかっ。」
 俗に言おうと思えば、姉妹2人のことをどうにでも言えるだろう。双発バズーカとか、巨大台風再上陸とか。
 だから、どうにでも言ってやってくれ。
 「と、というわけで、逼迫した財政赤字の問題の解決に少しは協力を……」
 「「男なら、パーッと、ねっ。」」
 2人合わせて川原に顔を近づけ、引きつりぎみの笑顔でこう言われると、すでに脅し以外の何でもない。
 「ちくしょうっ!運命の、ばっきゃろぉぉぉっ!!」


May be Continued...??




−あとがき−

 あるヒマな時思ったこと。漫画やアニメなどでヒト型のロボット……アンドロイドとか、一部ではマリオネットなどと(笑)呼ばれるシロモノ……を平然と登場人物もとい登場機械として出しているのはいいが、それの開発者はいったいどんな事情と技術の中でそれを作ったのか、あんまり詳しくは出てこないなあ、と。SFだったらちゃんと出てくるけれど、ちょっと内容難しいし。ちょうどその合の子みたいなものがあればいいのになあ……
 で、だったら自分で作ってしまえ(かなり強引)とばかりに書いてしまいました。ちなみに葛野摩耶の原型は○クラ大戦とは一切関係ありません。でも時間かけて調べればだいたい見当がつく程度に有名な作品をネタにしてます……容姿だけだけど。
 今回はあまり言いたいことは書けてません。逆に言えば、ひょっとしたら続編があるかもしれない……かな?ということです。『学園物語』とは別口で、シリーズものになればいいかもなんて思ってます。

by Chameleon Ponapalt

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