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技術の功罪
 

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◆2nd.ROUTINE/第二世界

 というわけで。
 「どぎゃーっっっっっっ!!」
どっかぁぁぁぁぁんっ!!
 坑道と周囲の岩盤ごと見事にくりぬかれた川原は、さらに見事に災厄を受けていた。
 地面にぶっ刺さったのである。
 それも、ぬかるんだところに。
 「………むぐぐっ、ぐぐくー、ぶふぐくんぐっ、」
 お約束どおり、ひとしきり手足をばたべたさせた後、ぴたりと止まり……いや、また動き出したか?
 「ふぐーっぐふぐふーっ!!(誰か助けてくれよーっ)」
 ごぽっと首の付け根あたりまで見事に埋まり、はたから見ればどうも動くトーテムポールか怪しいサボテンか三流芸人のギャグにしか見えない。待てよ、どうもドリフ的雰囲気もあるなあ……
 こほん。
 さて、トーテムポール男だから誰も助けない、というわけではない。
 「ほら気合を入れてっ、引き抜くから、せーのっ!よいしょーっ!」
 川原の足をひっつかんでうんうん言ってる人。性別は女性であり、年の頃なら17くらい。誰の趣味かは知らないが、服は着物と長袴。おまえはサ◯ラ大戦かっ!?
すぽんっ!!
 「んぎゃっ!!」
 ……それはともかく、天然記念物モリアオガエルを潰したときのような声を出しながらも、どうにか抜けたようだ。
 「いぢぢぢっ……なんだよ、ちくしょう。」
 「あーあ、顔にこんなにスリキズ作って。消毒液とかはどこにあるの?」
 「たぶんどっかにあるカバンのな……って、おい。なんなんだお前はっ。」
 不審そうな目でじろじろと女性を見ている……と、突然電気に打たれたように川原は飛び上がった。
 「……げっ、どーいうことだこれはっ!?これはっ!?これはぁぁぁぁっ!?」
 川原、こんな時に狂うでない。セリフがどうも不自然だぞ。
 「これは、これは、これはっ……って、まさか『これ』ってわたしのことっ?」
 「きっ……起動した覚えはこれっぽっちもないぞっ!!無断で転換宝玉かっぱらって組み込んだ覚えはあるがっ!!」
 そう。こいつこそ、いちいち川原が鉱山までうんしょうんしょと持って来た試作品の魔力機械。…なのだがしかし、動作するにしてはあまりにも難点が多すぎる。
 「それに第一、感情ルーチンのソースコードなんか一行たりとも書いてない、主電源ブレーカは入れた覚えがない、それでどうやって動くというっ!?」
 「主電源ブレーカは入れたのをド忘れしてるだけ、感情の方は転換宝玉に封じられてたわたしが出て来ただけだから問題ない、これでどうやって動かないというっ!?」
 ありゃ、一枚上手か。
 てなわけで、いつのまにか強引に彼女のペースになっている。
 「??…出てきた?転換宝玉から??」
 「そんなことより、わたしたちの身のことを案じたほうがいいんじゃ?」
 「…なんでだよ。」
 うやむやにされてはかなわないので、川原はそいつにつっかかる。しかし。
 「あれ。」
 言うと、彼女は少し右を向いて、市街地があったらしき方向を指さした。
 あった『らしき』というのは、川原たちと一緒に落ちて来た岩の塊で、見事にウン万トンプレスをかけられていたからだ。
 「そしてこれ。」
 と、視線を近くに戻すと。
 警備隊か警官らしき武装した人々が、ぐるりとまわりを囲んでいた。

……………

 「放射の規模と空洞の大きさから考えて……」
 かちかちとキーをたたいて数値と数式をほおりこみ、どんどんパソコンに処理させる智美。最終的に出力されてきたのは、ある1点で交わる1組のグラフであった。
 「やっぱりね、思ったとおりよ……」
 その点の周囲には、薄い赤線で区切られた領域が示されている。
 「素人にはよくわからないんだが、要するに、川原の奴は一体どうなったんだ。」
 「まず、これの説明から。バンバース(パンパース??)って人が考えた理論によると……まあ、細かいことを話してもわかんないだろうから、結論だけ言うわね。要するに赤線でかこんである領域が、別世界が安定して存在できるだろうと考えられてるところ。白い点が、今回のデータから弾き出した転送の終点位置。」
 手を休めることなく、説明を続ける智美。
 「つまり、君はここに、川原が岩盤ごと転送されたと言う気なのだな。」
 「そう。どうもあんまし期待したくないけれどね。」
 「その、君の言う場所から川原を連れ戻す方法は?」
 「今のところ、まったくなし。」
 処理を一時停止させて、窓のほう、そしてその先にある坑道入り口の方を見つめる。
 「……最悪の状況ね、あたしにとって……あのことがバレなきゃいいんだけど。」
 だから独り言はブキミだからやめろって。
 「最悪の状況とか、バレなきゃいいだとか、いったい何が言いたいんだ?」
 「あ、いや、別にね、ただ、川原が無事に戻って来てくれたらなー、なんて。」
 事務所のおっちゃんを困らせながらも、智美は何かに思いを馳せる。

……………

 「はあっ、はぁっ、まずはっ、この、状況をっ、のみこむことからっ。」
 ふもとの町まで猛然とダッシュし、やっとの思いで裏通りの空き家に逃げ込んだ1人と1機(笑)は、イスに座って息を切らせていた。ただし約1名のみ。
 「研究か何かのしすぎね。運動不足は病気の元よ。」
 「うるさいっ、機械に言われる筋合いはねえやいっ。……それより、だ。一体ここはどこなのか……。確かオレは北海道に居たはずなんだが……」
 「日出国北縁道渡別北7条。って言ってもわかんないよね。とにかくそういう地名。」
 なんとなく似てそうで似ていない地名が、彼女の口から飛び出した。
 「どっからそんな具体的なことが!?だいたい日出国ってどこだ?ウソ八百言ってダマす気か?日本の間違いだろう!?どうやってそんなウソが湧いてきたんだ!?」
 不思議そうな顔をして、川原が尋ねる。
 「湧くって…元々わたしはここに住んでたんだから、ウソも何もないでしょ。」
 どうも内容の進み方が早すぎて分からない。
 「……待て、待ってくれっ。確かにそうだったんならそれでも別にいいけれども、君が封じ込まれてたとかいう転換宝玉は、おそらくこことは別の、オレの世界……少なくともこことは別の土地に埋まっていたんだぞ?」
 「そんなの知らないわよ。わたしは1年前、警察に捕らえられて勝手に宝玉に封じられて、気づいたのがさっきなんだから。」
 ますます分からない。
 「だいたいなんで警察なんかに捕らえられたんだ?」
 「……まあ、お互いいろいろ分かんないことが多いようだし、まずはどこかで落ち着きましょ。それからでもたぶん遅くないしね。」

……………

 「…わたしたちの世界では、人間はたいてい『機械化』されてるわけ。ニューロンを模した電子的回路に精神を移し替えるという方法で。少なくともそれでわたしたちは肉体的寿命は克服できたわけなのよ。精神的寿命っていうものは越えられないけどね。」
 薄暗く怪しいバーらしき建物の奥。2・3部屋ほどがある一帯のうちの1部屋で、2人は一息ついていた。
 「ほー、言うほど悪いことじゃないな。」
 「ところがよ。それだけ寿命が伸びちゃったうえに機械だからパワーアップも容易、となると、やっぱし犯罪とかが増えちゃうし、何よりどうも人間、って感じがしないじゃない。それって……」
 「あんまり、いいとは言えない?」
 「そこでわたしたちは、そんなのに反対していまだ生身で頑張り通す連中をかき集め組織化して、機械化を進める政府とかにちょっとばかし反抗してるわけ。」
 彼女らは一言で言うと、レジスタンスだというわけだ。もっとも、相手の方から見ればポル・ポト派といっしょくたにしか見えない過激派バクダン娘だけれども。
 「もっとも、わたし自身、もののはずみでこんな体になっちゃったからね……」
 と、手を握ったり開いたりしてみるエリー。
 「贅沢者だな。オレの自信作なのに、それでまだ不満か?」
 「不満、ってわけじゃないんだけどね。そこそこの美貌だし。あんた、技術者の見込みあるわよ。…でも、どうもしっくりこないというか……」
 当り前だ。自分は生身だという観念が染みついた奴が、特殊な魔力機械のコアになっているのだから。
 「それに、これじゃあ機械化に反抗する権利すらないじゃない。生身の人間ならともかく、機械になっちゃったのがいくら言ったって説得力ないし。」
 「あんなちっこい宝玉の中に封じ込まれてるよりはマシだろ。」
 机の冷めかけたコーヒーを飲み干して、川原は言った。
 「それより困ったのはオレの方だ。このままじゃウチの社長にこっぴどく叱られる。『まだ開発しとらんのかこのノロマがっ!!』……てな。」
 「なら、わたしを見せれば話は済むじゃない。こういうのを作りました、って。わたしがそっちの…魔力機械だっけ?の知能レベルに合わせて演技して、ついでにキスでもしてあげれば、どこの誰だか知らないけど、その社長さん、のぼせあがって喜ぶわよ。『うおーっ、技術革新だーっ』って。」
 「まっ……まあ、そこまでやりゃどんな男だって喜ぶわな……。それより、それ以前にどうやって自分の世界に戻るか、だなぁ……」
 困ったという顔をして、川原がぽりぽり頭をかいていると……
ばたんっ!!
づかづかづかっ!
 突然、お役所スタイルの人が6人、ドアを勢いよく開けて入って来た。
 「全員、登録証を!」
 「ちっ……」
 そいつらを見たなり、エリーは舌打ちして、無視するかのように顔をそむけた。
 「何だ…?」
 「一斉人口調査、とか言って行われる、事実上の反逆者狩りよ。わたしみたいな反政府人物とか、あんたみたいな不法入国者とか、いわゆる危険人物は、登録証を持っていないからすぐわかるからね。」
 と言う間にも、手前のテーブルのチェックが終わり、奥のほうへと6人は歩を進めていた。
 「……オレも同類か。」
 「そうよ?たぶんあんたは、日本国、とか呼ばれてる、たぶんその……別の世界から来た人なんだろうし。」
 「…待った。まだ出身国の名前までオレは言ってないぞ。なぜ、知ってる?」
 「……っ……っと……世の中いろいろあるのっ。」
 よく考えれば、たぶん別世界からここに飛ばされて来ただろう、っていうことを除き、彼女が川原のことを知っているわけがないはずなのだ。宝玉に封じられて追放された彼女が、たまたま川原に拾われて(?)ここに至ったのだから。
 「でも、武器なんか持ってないし……丸腰なのに、どうしよう?」
 ちょっとだけ弱気になるエリー。川原は、周囲を見渡して何かないか物色している。
 「……ここにあるだろ?」
 そして、目の前にある『当たったらものすごく痛そうな鉄製の机』を指さす。
 「少なくとも、人間レベルの力は出せるってことは保証する。」
 川原がうなずき、すかさずエリーは机の支え棒をひっつかむ。もちろん今から実行することは、良い子&良い学生はマネしてはいけない。
 「なるほど……ね!」
 目標は、左右と中央にそれぞれ2人ずつ!
びゅんっ!
ごしっ!ずがががががががばきっ!!
 机といっしょに3メートルほどフッ飛ばされたあげく、右の2人は動かなくなった。
 「動くなっ!」
 「そう言われて止まるのはただのアホだけよっ!」
びゅんっ!
どしゃぁぁぁぁんっ!

……………

 後方に見え隠れする追っ手を引き離そうと、かなりの間どこかに向かって走る。
 先程の男たちが応援を呼んだらしく、追っ手は徐々に増えてはいるが、どうにか抜けられそうだ。
 「どこへ行く気なんだ?」
 「……建物。」
 「はあ。」
 ちなみに、見渡す限り建物だらけである。こんな都会で『建物に行く』などと言われても困り果てるしかすることがない。
 「レジスタンスとかの類いのお約束みたいなもんだけど、とにかく秘密のアジトがあるのよ。わかる?」
 多数派に反抗する少数派には必ず秘密のアジトがある。これは常識だ。
 「ま、だいたいそうだと予想はしてたけど、ここまでありきたりだとは……」

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