+-----学園物語4 TERM 2/暫定版-----+
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第2章
「……そうすると、現実界にまたちょっかい出そうとしているせいで、消えたんじゃないのか?卒業式のあの件も…それで。」
「十分、ありえる話ね。」
「だからわたしが、こうやってついて来たんですよ。」
「「んがっ!?」」
夕方になって、下校時刻も過ぎた。
街灯がぽつぽつと灯りだし、夕ごはんの支度のにおいが、ちょっとだけただよう。
「……どうしたんですか。そんなにびっくりして。」
(校則違反の)買い食いをしようと、近くのコンビニの入り口の扉を押した瞬間、後ろから声をかけられたんだから、そりゃびっくりする。
…たむろしていた同級生たちも、先生の姿を見て一瞬凍りついた。
「あ、あたいは買い食いなんかしようとしてたんじゃないよっ、え、えっとねっ、良昭クンのノートをねっ、コピーさせてもらおうって…」
「良昭さんがノートをとっている姿は、一度も見たことがありません。」
「あ、ご、ごめんっ、ノートじゃなくて教科書!英語の!」
「英語の教科書なら、そこに入っているじゃありませんか。」
口あけたまんまのあたいのカバンから、英語の教科書がちらりと見える。
「……あああ、だからとにかく買い食いとかそんなのはっ……そ、そうよっ!あたいはねっ、ここにいる買い食いしてるみんなを更生させようと張り切って…」
「はぁ……さっきから、何言ってるんですか。」
ため息をついて、呆れ顔で、先生。
「じゃ……先生……」
「実は……わたしも菓子パン1つくらい食べようかなと……」
ドシャアァァァァンッ!!
仮にも『校長先生』なのにっ!買い食いを自分からしてどーすんのっ!
「一応先生なんだから、マジメに教育しなさいよっ、まじめにっ!!いつぞやのPTA総会であんなこと言ったくせにっ!」
「じゃあ……怒りましょうか?」
あたいは、口をぽかんと開けたまま、しばらく何も言えなくなった。
……………
「何をする気だ?おとなしくしていれば幸せになれるものを。」
「いや!絶対いや!」
「ほお……君はやけに抵抗するね。でもここは42階。屋上へは上れないそうだから、これ以上上へは逃げられないよ。」
ある男性が、女性を追い詰めている。
男性は冒頭のメガネ男。で、女性は…
「…そこから飛び降りて死ぬというなら別だが、それでは逃げたことにはならない。」
窓際に立つ女性……言うまでもなく、女の子だが……は、口をきつく閉じて、睨むようにメガネ男を見上げる。
「命は粗末にするもんじゃないよ。さあ。おいで。」
「いやっ!」
そりゃいやだろう。ワケのわからんオタク男に迫られるのは。
「あまり怒らせると、乱暴しちゃうぞ。」
乱暴の意味については、読者のご想像に任せる。
ま、どう考えても、ロクな意味にはならんだろうが……
男は一歩一歩近づいてくるが、後ろはもうガラス窓。ベランダもない。
暗い夜。刺すような風が、ガラス窓をがたがたといわせている。
「……そう。そこでじっとしてれば、僕が何も分からなくしてあげよう。そうすれば、苦しいということもない。」
そして……
男の体が、いま少しで触れようかという時になって…
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドスンッ!
渾身の力をこめて、メガネ男を突き飛ばし、さらに!
パリィィィンッ!!
その反動もつけて、ガラス窓を破った!
強烈な風で、ガラスの破片と共にあおられる!
「……んぐっ……畜生、……」
男は一瞬で、強く求めていたはずのものを失った。
彼女は……漆黒の闇の中に、消えていったのである。
「失敗か……明日の朝にでも、外のモノは処分させておこう。」
……………
「オレの家、手狭なんだから、あんまり押しかけてほしくないんだよなぁ……」
良昭クンの家、つまり、マンションのA棟302号。
あまり眺めもよくないし、壁材もくすんで見える、安っぽい部屋。
「なんかこの家って、いつ来ても、良昭クンに似合ってるのよね。」
「どういう意味だっ!」
「…安っぽい。」
きっぱり言ってやると、ぶつぶつと文句をこぼしながらも、手早く物を整理して、あたいたち2人のために部屋を空けてくれた。
「すいませんね、急に押しかけちゃって…」
「え、先生は構わないっす。問題は……この真里……」
「何が問題なのかなぁ?」
あたいの必殺武器、ハンディ・ノコギリをちらつかせてみる。
ちなみに今日のはステンレス製!サビ知らずで切れ味抜群しかもお徳っ!
「……何でもないですっ……それより真里、今日泊まるって親に電話したのか?」
「うん。いいって。」
「……お……おまえん家の親って……いったい……??」
男と泊まるなんて言ったら、普通親ってぜったい許可しないよねぇ。
明らかに不純異性交遊だし。
「良昭クンと2人でいいムードになってきなさい、だって。」
「は……はあ……なんとな……」
たぶんウチの親は、生まれたときから良昭クンと一緒だから、特別に許可してくれたんだと思う。
それに、良昭クン、案外『成長』してないし。
「先生もいっしょだって言ったしね。」
そう言って、すたすたと炊事場の方へと歩く。
冷蔵庫をばかっと開けて物色するけれど、すぐ食べられそうなめぼしいものがぜんぜんない。
戸棚とかもあさってみるけれど、カップラーメンすら切らしてる。
ああっ!ビンボーな悲しき学園生活っ!
こんな状態で『突撃隣の晩ごはん』にでも突撃されたらどうするのよっ!!
「ね、ごはんーっ!!ごはん食べたい食べたい食べたいーっ!!」
「はぁ……わかったわかった……すぐ作るから待てって。」
「ごぉーはぁーんーーっっ!!」
近所に聞こえるくらいデカい声で叫ぶもんだから、良昭クンも作らないわけにはいかないはず。
これで夕ごはんはゲットしたも同然よっ!
「せっかくですから、わたしも手伝いましょう。」
そう言うと、シレスト先生も急いでエプロン姿になる。
……どこにあったのっ……??エプロンなんて……
ともかく、2人ならちゃんとしたごはんが作れるだろうと安心して、あたいは居間へと戻った。
今日校長室で見た『プレミアム版』が、机の上に放ってある。
…美樹って…まだあたいのこと狙ってるんだろうか……
説明書の『美樹』のページもめくってみる。
今見ると、かわいく見えないということもない。かなり男ウケしそうだ。
だから良昭クンもハマっちゃったんだろな。
「……早く、玉子取ってくださいっ。」
キッチンで何やらごちゃごちゃやってる2人。
平和だねぇ……
……つまり、コタツに足つっこんで、日本茶でも飲みたいような気分。
ごぉぉぉぉぉぉ……
風の音か何かが響き始めた。今日はたぶん寒い夜になると思う。
先生も良昭クンも一緒だから、精神的に寒いってことはないけれど。
……しょーもないダジャレを言わない限りね。
ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
よほど風がきついんだろう。低いうなりは、かなり耳につくほどになっている。
「……ブキミねっ……こういう時は早く寝るに限…」
と言って、寝っころがって天井を見た瞬間、あたいは呆然となった。
…天井が、真っ黒!!?
ちょっと待ってよ、ここって白い建材か何かを張ってたんじゃなかったっけ!?
「ええええっ!?」
びゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
風が強烈に渦巻き、テレビすら吹っ飛んだ。あたいはとっさに床にうつ伏せになって、何とか飛ばされるのだけは免れる。
「何よぉぉぉっ!?これぇぇっ!」
どすぅぅぅぅぅんっ!!バキバキバキッ!!
何かが落ちて、部屋の中心に残っていた机が、真ん中から見事に粉砕された。
そして突然、風も止み、天井の異変も静まる……
「何ですかっ!?」
「遅いわよっ、先生っ!!」
何とかコトが収まってからやってきた2人に悪態をつきながら、あたいは起き上がった。
まずは、何が落ちて来たのか確かめなくちゃいけない。
机のガレキを懸命にどけていると、ところどころに血がついている。
「人間……?」
つづいて、うつぶせ状態の女の子が見えてきた。同級生くらいか。
白い服のところどころが、血で染まってかなりブキミ。まるでスプラッタ映画の撮影後の俳優。
「……ぼーっと突っ立ってないで、良昭クンも手伝ってよ。」
良昭クンに足のほうを持たせて、2人でその女の子を廊下に移す。
そして、床にそっと置いて、静かにくるりと顔のほうを上に向けさせた。
「お……おい……こりゃあ……」
かなり血が飛び散っているものの、その子の顔ははっきりと分かる。
「……事件の原因の、一つですか……このことが……?」
「たぶん、原因じゃなくて、結果なんだと思う……」
まぎれもなく。
その子は、美樹だった。
……………
「馬鹿。自業自得だ。少しくらい相手の気持ちも考えろ。」
「……ああ……で、外の死体はどうした?」
「ガラスの破片と血痕は少しだけあったが……」
「おかしいぞ。誰かが持ち出したか?」
「そんな趣味悪い奴はいない。おそらく…ヴァーチャルだから、命が尽きると同時に跡形もなく消えるというところだろう?」
「……そんなものか…………?」
……………
「ひどい怪我。死んでるの?」
一応119に連絡した後、また美樹のところに戻って言った。
ヴァーチャル娘が医者に治せるか、っていう根本的な問題はあるけど……
「……いえ、どうにか大丈夫です。ただ、傷が広範囲にわたっているうえに、脳を損傷している恐れもあって、魔術ではちょっと回復は……」
あたいの目の前に、つい最近あたいを狙った奴が、血だらけになって失神してる。
確かにこれであたいは安全なんだろうけど……
「でもさ、何で仮想世界の住人が現実世界で血を流してるわけ??……だいたい前の時なんかも壁すり抜けてたのに。」
「そういえば……」
普通なら、このまんま机も床もすりぬけて1階まで落ちるか、机の上でぼよーんと反射して軟着陸したとか、そうならないといけない。
でも実際に、目の前で美樹のやつは血まみれになってる。
「誰かに『固定化』されたとか……そのくらいですか、原因とすれば。」
「固定化?何それ。」
「……難しい概念になるので、詳しいことは言いませんが…要するに、ある魔術的方法によって精神体を固定して、実体化させた……と言ってもわかりませんよね。」
「うん。わかんない。」
超初心者かつ魔術オンチかつ赤点女王にそんなこと言われてもわかるわけがない。
「オレもわからんけど…要するに、ジュースを固めたら即席のアイスキャンデーができる、あの理屈と同じってことか…」
「そうです。」
ますますわかんない。
も、もしかして美樹って、チューペットと同類!?
ピーポーピーポー…
消防署はすぐ近くにあるので、ほとんど間を置かずに救急車はやって来た。
ばたんっ!!
「けが人は!?」
白服・白ヘルメットの救急隊員が、担架をかついで現れた。
「こっちです。」
廊下に寝転んで、意識を失ったままの美樹を、手際よく担架に乗せる。
「真里さんと良昭さんは、このまま一晩過ごしてください。わたしは美樹さんに付き添いますので。それから、明日は休みます。3Aの2時間目と4Cの4時間目は自習です、と、教頭先生に伝えておいて下さい。」
「わかった。意識回復したら、真っ先に教えてよ。」
「わかっています。」
キィィ、バタンッ。
そう言い残すと、先生は慌ただしく出て行った。
ぴーぽーぴーぽー……………
「……ってことは、明日4時間目は自習か。おっしゃあっ!寝放題だっ!このところシレスト先生に遠慮して1回も寝てなかったからなっ!」
「……あんた、居眠りするのに構えてどーすんの。」
「ふっふっふっ……明日こそ徹底して寝てやる!覚悟しておれっ!」
全然関係ない居眠りの話を平然とする良昭クンに、あたいはあきれた。
いくらあたいでも、(良くも悪くも)美樹のことは気になる。
「そんなふうな態度で、魔術が身につくとでも思っているのっ!!」
「そっくりそのまんま、真里に返すぞ…今の言葉。」
「うるさいっ!今夜はみっちりと教育してやるわっ!覚悟しなさいっ!!」
……注意。『教育』の意味を、変なふうにとらないように。
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