+-----学園物語4 TERM 2/暫定版-----+

 


学園物語4 TERM 2/暫定版
 

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 「さぁーて、今日はどの娘にしようかな……?」
 銀縁のそれっぽいメガネをかけた男が、そう言った。
 ……何だかマイク□ソフトでも経営してそうな顔立ちだが、残念ながらただの高校生である。
 「……うーん……迷うなぁ………」
 目の前には、総計30人ほどの人間がいる。しかもそれが全員、10代中盤の女性だから趣味が悪い。
 彼女らは全員、おびえるような目をして、時々ちらり、ちらりと真ん中にいるメガネ男の顔をうかがう。
 「しかし、最近もうこいつらにも飽きてきたしなぁ……」
 「おい。」
 気がつかないうちに扉が開き、別の男が立っていた。
 「何だ、朝っぱらから。人がせっかく本日のお相手を吟味しているところなのに。」
 「とうとうつかまえたぞ……一応お前の言うとおり。」
 「あいつをか!?」
 がたり、と、安っぽいイスを倒してまで、勢いよく立ち上がるメガネ男。
 「……そうだ、今の今まですばしっこく逃げ隠れして、どうやら助けを呼ぼうとしていたようだ……。」
 『別の男』は、乱暴にも後ろにいた人の首ねっこをひっつかみ、ひきずるようにしてメガネ男の前へと突き出す。
 またもや女性である。
 「ほぉ……」
 「術で固定化してあるから、もう壁やら何やらをすり抜けて逃げていく心配はないはずだが。」
 「これはまた、噂どおりの上物だな……」
 メガネ男は、目を細めた。
 「ちょうどいいかげん、飽きて来ていたところだ。……名前はなんという?」
 少々デカめの顔を、『上物』などと呼ばれた女性に近づける。
 女性は、答えない。
 「……名前はなんという??」
 まだ答えない。
 じれったくなって気分を害するのを恐れたか、『別の男』は横から口を挟んだ。
 「……分かってるくせに、いちいち聞くもんじゃない。」
 「いや、ただ単に素直さを試しただけのことだ。どうやら彼女は、長い逃亡生活のせいで、性根がひんまがってしまったらしい。」
 メガネのズレを少し直して、男はイスに座り直した。
 「何にしろ……よくやってくれたな。お礼といっては何だが、そこにいる奴らのうち、好みの娘を持って行け。」
 「人形状態のバーチャル娘をか?……冗談じゃない。いいかげんお前の趣味には呆れる。」
 「ははは。この期に及んで人道主義か??ここは仮想世界だぞ?散々やったって、誰からも文句は言われない。」
 「どうせその娘も、術か何かで毒気抜きして、いいようにするつもりだろう。」
 「どこが悪い。」
 その答えに、『別の男』は呆れた顔をした。
 「どうせおまえにはわからんよ。空しくないか?全く抵抗しない奴と一緒だなんて。」
 「僕は構わないがね、一生このままでも。」
 「なら一生やってろ、ちくしょう。」
ばたんっ!
 『別の男』は、もう見たくもない、という調子で、わざとドアを勢いよく閉めて出て行った。
 「さて……まずはちゃんと自己紹介できるようになってもらおうかな、美樹ちゃん……」

学園物語4
第2ターム 仮想現実志向

第1章
 「結局、何だったんだろね。」
 新学期。そして新学年。
 卒業式の警報事件のナゾも理解しがたい状況のまま、真里たちは惰性で学校へと通う。いいかげん6年強も同じ学校でくすぶっていると、飽きてくるのが人情というものだ。
 注釈、3年分の留年を含む。
 ……ちなみに、真里に限っては、ストレス発散の場として好都合だったのだが、今となってはそれ用の山も破壊しつくし、不満たらたらの日々が続いている。
 「……さあ……知らん。」
 最新の国土地理院2万5千分の一・緊急修正版の地図と、5年前の地図とを比べると、盆地だったはずの学園周辺が、今や平野の一部と化していることがよくわかるだろう。
 山の跡は住宅地として造成され、周囲の発展に貢献した……とも言えるだろうが、吹っ飛ばした跡には草木一本生えないというのはマズすぎる。
 「せっかくの卒業式台なしにしてさぁ。」
 「台なしにしたのは元はといえばお前だっただろ!?」
 環境保護団体からつるし上げられてもいいような気もするが、何と奇跡的にもおとがめなし。それどころか、地元の町長から感謝状すら送られてきたらしい。
 ……もちろんその感謝状は、教頭が後で厳粛に処分したらしいが……
 「それに、あの殺人未遂女とか、ダンディ男とか、死神の親玉とかも姿を見せないっていうのもどうかしてるしね。」
 言うまでもないが、榛原美樹とあの謎の男、そしてシャルムのことだ。
 ……話がズレた。
 ともかく、真里には今ストレスがぎんぎんに溜まっているということである。
 「そりゃ、両方とも姿なんて出せたもんじゃないだろ。真里が恐いからな。」
 「どういう意味よっ!あいつらが恐がってるのは、シレスト先生の方じゃない!」
 「いいのか?…今の言葉、本人にそのまま伝えとくぞ。」
 「きぃぃぃぃぃぃっ!!」
 そのうえ良昭におちょくられたもんだから、堪忍袋の尾が3回転半ひねりして切れた。むろんそれと向き合う良昭に訪れるものは『半殺し』である。
 「どりゃっ!!」
チュドォォォォンッ!!
 「うををををををををっ!!」
ばきゃあぁぁぁぁんっ!!どしゃゃゃぁんっ!!ごちんっ!ずどしゃぁぁんっ!!
 1番目は良昭の体+真里の魔術が壁を突き破った音。2番目でそれにつられて教室のガラスが割れ、3番目で良昭は別棟にぶち当たって反射し、4番目でそのまま元の教室に戻ってきて着地した。
 都合2.27秒間の空中遊泳を体験した良昭は、朝っぱらからべろべろである。
 「ぐっ……ぐはっ……死ぬかと思った。」
 普通の人間なら確実に死んでいる。
 「以降、真里ちゃんへの言動には注意するように。」
 「へえへえ……ちくしょう……それより、この状態で1時間目はどうするんだ?」
 「……あ。」
 教室左右のガラスは粉々に割れ、うち片方は窓枠まで粉々になり、天井は抜けて真上の2階にあった高2のクラスの生徒が数人落ちて、そのうえ黒板は歪み、電灯はすべて消滅し、机とイスは全て原型をとどめておらず…
 ……以降の表現は筆者の方で自粛しておこう……
 ともかく、そのような状態で、授業がやれるのか、ということである。
 「……ははは。ということで、1時間目は自習ね。」
 「『次週ね』の間違いじゃないのかっ!?」
 学園のほとんどの教室は、最近たてつづけにリニューアルされて、新ピカの教室で学ぶ生徒が大いに増えた。
 つまりそのぶんだけ、真里がぷち壊したのである。
 「…全く、最近やっと体育館の復旧が終わったばっかりだぞ……」
 「それも2カ月後にはたぶん壊れてると思う。」
 「自分で言うな!……しかし、これだけ壊したら……」
 「怒るよね、さすがに……先生……」
 2階の教室へと続く大穴からの、上級生の視線を浴びながら、真里はタラリと流れた冷や汗を拭いた。
 1時間目の担当教師が現場を見て卒倒するのは、この5分後のことである。
……………
 「……………。」
 気まずい空気が、校長室にむんむんと充満している。
 ……たった4人でこんなになっちゃうんだから……
 「………あの、ね、実は、良昭クンがね……」
 「オレかよっ!?……」
 「……………。」
 部屋の応接セット。
 廊下側にはあたいと良昭クン。窓側には教頭先生。そしてさらに、奥のデカい机のそのまた奥では、シレスト先生が紅茶飲んでる。
 というわけで、いつもの真里でぇす。
 「このさい良昭でも真里でもいいんだっ!教室散々にぶっつぶして何がおもしろい!?」
 「だってさ、良昭クンがさ、」
 「だからなんでオレなんだ!!」
 「んぐぅあああああっっ!どっちでもいいんだ!!」
 教頭先生が吠えた。
 わおーん。
 「まったく毎度毎度壊すなとあれほど言っているというのに、何だまたこのザマはっ!?いいかげんにしないと退学だぞ、退学!!」
 「……いけませんねぇ、言葉が汚くなっていますよ。教師たるもの生徒の模範とならなければ……」
 「叱るのに丁寧な言葉使ってどうするんですか校長っ!!」
 「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいじゃありませんか。」
 そう言うとシレスト先生は、また紅茶に口をつけた。
 教頭先生、おもいっきし頭をかかえてしまっている。
 「……と、ともかくっ!……校長がああおっしゃるのだから今日はこのくらいにしておくがなっ!!今度やったらシンボルタワーの頂上から逆さづりにしてやるっ!わかったなっ!!今度は本気だぞっ!!」
ばたんっ!!
 何度もあたいたちを指さして念を入れながら、教頭先生は校長室を出て行った。
 「……ふう。」
 嵐は去った?
 「全く、教室1コくらいでがたがた言うようじゃ、心が狭いよね。」
 「普通がたがた言うって、普通。」
 「でもさ、今度のは一応、床と柱は残してあるんだよ。」
 「……いやまあ、確かに9日前よりはマシだったが……」
 9日前…始業式兼入学式の日にも、あたいは教室を吹っ飛ばした。
 しかも、根こそぎ。
 あんまりにもヒドかったので、いまだにその時のクレーターの跡がくっきり残っている。
 「いくら何でも、1カ月も経たないうちに次を吹っ飛ばすというのはやりすぎでしょうが……」
 紅茶のカップを流しに置いて、先生がこっちに来た。
 「……今日の話はまた別のことです。」
 「へ??あたいたちにオシオキするために呼んだんじゃないの!?」
 「……オシオキの方もどうにかしなければいけませんが……」
 と言いながら、ごそごそと何やら戸棚を探している。
 で、取り出したものはといえば……
 「……これって……」
 「そうです。」
 先生が取り出したのは、表面に女の子のイラストが描いてある、一枚のCD-ROM。
 …そう、あの『美樹』が…
 「ま、まさか、先生もこのゲームやってたとかっ!?もしかして変な趣味っ!?先生ってオナベさんだったのっ!?」
 注釈。オカマの反対だからオナベね。
 「違いますっ!!……あっ、」
しゅぱっ!
 「……こっ……これはっ……」
 素早い動作で突然CD-ROMをもぎ取った良昭クンは、突然目をきらきらさせて…
 「こっ…これはっ!『超インパクト!何と美樹ちゃんの入浴シーンつき!』の、夢にまで見た限定プレミアム版っ!!うをををををっ!!」
 「まだ懲りてないんかっ!!」
ボギッ。
 見事に顔面にヒットしたあたいのパンチは、良昭クンを一気に沈没させた。
 「…でもさ、プレミアム版なんて……どっから手に入れたわけ?」
 「どうせ入手するなら、と思いまして。」
 「だっ……だからねぇっ……」
 新手のギャグかと思ったけれど、どうやらこれは先生の『地』らしい。
 ……吉本新喜劇でも食っていけるんじゃないの、シレスト先生……
 「…まあ、それはさておき、問題は中身なんです。」
 と言うと、あらかじめ準備しておいたゲーム機にセットし、電源を入れる。
 製作会社のロゴにつづき、あのそれっぽい甘ったるい音楽と、やたら背景に桜の風景を使ったそれっぽいオープニングが……
 「……いいかげん、こういうのやめてほしいって……」
 「……まあまあまあ、問題は……」
 …またそれっぽい『〇〇の木』がにょきっと生えた学校全景を表示して、それから満を持してメインキャラの美樹が……
 ……美樹が……
 ……あれ?
 「……なんかおかしい……」
 こういうテのゲームにありがちなオープニングなら、やっぱり制服姿のキャラがぽんぽん出て来てもおかしくないはずなのに、動いているのは背景だけ。
 なくてはならないはずのモノが、丸ごとごそっと抜け落ちている。
 「……ただのゲームプログラムのバグじゃないの?」
 「いいえ。」
 きっぱり言うと、ゲーム機からつながるビデオ線をひっこぬき、ビデオデッキにつなぎかえて。
 「…これは、4カ月前の同じ場面の録画です。」
 さっきと全く同じ曲、同じ背景。ただ一つ違うのは、美樹プラスその他一同がちゃんと映ってること。
 「何で……?」
 「しかも、この症状は、例の卒業式の日までに一斉に起こったことなんです…全国一斉に。」
 「は……?」
 「つまり……卒業式までにも、映らないってキャラがいたらしくて、それが式に近づくにつれ増え、そして式の当日に…」
 「最後の美樹まで、消えちゃった、と……」
 卒業式の日に鳴った警報と関係がどう見てもあるようだけど……
 「ゲーム会社は対応に追われているそうですが…ただ、調べると、プログラムやデータには全く何の異常もないそうです。」
 「……だ……だからさ……」
 言葉で説明されただけなら、科学者ぶって『そんなもの現実にあるはずがないのだっ。』と逃げることもできるけれど、目の前にはっきり見せられたあげくこれでは…
 「……ぜんっぜん、わかんないんだけど……」
 「わたしにだってわかりません。」
 困ったような顔をして、シレスト先生は答えた。
 「ふーん……………」
 あたいが、わけもわからずまゆをしかめていると、良昭クンがゆっくりと起き上がった。
 「な……何の話なんだ……?」
 「あのね、美樹がね、他のキャラと一緒にね、消えたの。」
 「………は?」

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