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学園物語4 TERM 1
 

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第7章
 「しっかし……参ったなあ……ここまでモテるとは……ムフフフフ。」
 「何よ、こんな時に鼻の下伸ばしちゃって!」
びろーん。
 「いいじゃないか、オレにも春が来たんだ、はっはっはっ!」
 「……それくらいにしておいたほうがいいですよ……ほら。」
 シレスト先生の忠告を聞いて、良昭クンはあたいの顔を見て……
 「うぎょえっ!?そ、その怒りの顔はっ!?」
 「そーよぉぉおぉぉぉっ、もちろん、人間サンドバッグを企んでる顔なのよぉぉおぉぉぉぉっ。」
 ここは一発、バックを紅蓮の炎にして1カット!
ぶおおおおおお。
 …こんな非常時に、何してるんだろ、あたい。
 「あんたたちいったい、こんな時に何してるわけ!?」
 「ギャグ。」
 でもね、やっぱし読者さんたちのためにこんな時でもひと芝居打たなくちゃ。
 呆れたシャルム先生は、あたいに言うのは諦めて、良昭にとりかかる。
 「あんたなら、ちゃんとしてくれるわよね。」
 「……さあ。」
 「やらないと、真里とかいう奴の時よりもヒドい目に遭わされるぞ。」
びくっ。
 ダンディ男の重低音に、良昭クンはビクついた。
 「さて、お遊びはここまでにして、だ……美樹とか言ったな。」
 さっきまで剣を振り上げた状態で律儀に一時停止していた美樹は、やっと出番だと悟ったらしく、3人のいる方に向き直った。
 「ライバルを消して、自分だけいい気になろうとしたのか、それともオレを利用してなにか事を起こすつもりだったのか知らないが……」
 それっぽいポーズを取って、美樹とマトモに対峙する。
 「少なくとも今現在は、お前のことは大嫌いだ。」
 「なぜ……?」
 「……ああ、嫌いだ。」
 良昭クンは、一歩踏み出した。
 「ここまであなたのこと思っているのに、ここまでいちずなのに……なぜ?」
 戸惑いの表情を見せながら、良昭クンにゆっくりと近づいていく。
 「……………。」
 良昭クンは、今まであたいの記憶にある範囲では女の子に向けたことのないような表情で、美樹をにらみつけた。
 「女って、分からねえな……本性がよ。」
 気押されて、美樹が一歩下がる。
 「だいたい、いちずだとか言っておいて、自分の好みが変わったら他の人のところにすぐに走って、オレなんか放っぽりだすつもりだろ?」
 「そ、そんなつもりない、」
 「それに、」
 良昭クンは、さらに一歩踏み出した。
 「人に傷をつけるようなやつは嫌いだ……特に、女の子にな。」
 そう言うと、あたいの顔を、びしっ、と指さした。
 そこには、あの切り傷の跡が、まだはっきりわかるほどに残っている。
 「そんな……私、あなたのために…」
 「オレのためならあんなことするんじゃねえ!」
 怒りの声がひびき、その気迫はあたいにまで迫ってきた。
 いつもの良昭クンじゃない。
 …普通ならここで一発ギャグを打つところだけど、今はそんな雰囲気じゃない。
 「……全く。こんなことだから女ってもんは信じられないんだよな。」
 「あたいも??」
 「もちろん!!」
 「……ブチ殺されたい?」
 勢いつけてぎろっとにらみつけてやる。
 「え、遠慮いたしまする、」
 「こんな時に、よくそんなことができるな。」
 あの男の人、苦笑まじりの呆れた顔であたいを見つめる。
 「あたいの『地』だから。」
 とはいえ、もちろんあたいだって緊張してたりするけどね。
 「とにかく、女のコが信じられない、っていう問題発言は、減点5ね。」
 あたいがそう言うと、うつむいてた美樹は、ぱっ、と顔を上げた。
 「信じられない……そう、私も、信じられないことが1つ……」
 ひゅっ、と、片腕を直角に上げる。
 その腕の先が向く方向は……シレスト先生!?
 「シレスト先生に何する気よ!恨み持ってるのはあたいにじゃないわけ?」
ふわっ。
 突然先生の体が浮き上がったかと思うと、
グオズンッッッ!
 「っ!……」
 壁に叩き付けられて、動かない、さらにそこへ!
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ!
 「が、あああああっ!!」
 両手両足に一本ずつ、魔術でつくられた光の釘が刺さる!
 「なにすんのよ!」
 「……Alt De Luzxsdr Maks Doksadl Kenklsladja Balazxoiddkjfla……」
 そして間髪を入れずに、何語ともわからない言葉が、美樹の口から流れ出す。
 「先生!呪文!これ呪文だってば!」
 「わ……わかってます!」
 あわてて防御呪文を唱え出す先生。けどそれより先に、美樹の手に光がともる。
 間に合わない!
 「……Maxxa Dokdks Della!」
 「ぐ、ぐおあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 「せ、せ、先生!!?」
 黒髪を振り乱し、尋常じゃない声と表情で、もだえ苦しむシレスト先生。
 「あなたたちが信用しているはずのあの先生……でも、今からあなたたちは裏切られる。そう、ヨシアキ君が言ったように、女の本性はわからないことを、見せつけられるの。」
 「何をする気だ……」
 良昭クンも、手は出せないけれど、怒りはまだ収まってはいないよう。
 「そう……よく見なさい!」
ドウンッッッッ!
 強烈な魔力波を、さらにたたきつける!
 「ぐ、ぐおあぁぁぁ、が、が、ご、ぐお、ぉぉ、おがぁぁぁ!」
 その声はすでに異形の者のよう。もののけがとりついたような……
 「何する気よ!」
 「見てなさい!」
 さらに押し寄せる魔力、そして。
 「あがぁぁぁぁ!」
ばさぁぁぁぁぁぁっっっ!!
 「せ……………先生……………」
 「悪魔!?」
 シャルム先生はそう吐きすてると、美樹にではなく、シレスト先生に向かって戦闘体制をとる。
 先生の背中に、羽根が……
 「違う……」
 そうつぶやく良昭クンに、改めてシレスト先生の方を見てみる。
 向かって左はコウモリ……悪魔の羽根。
 向かって右は白い鳥……天使の羽根。
 悪魔じゃない。
 「とある伝説の中にもある、悪魔と天使の間に生まれた禁断の呪われし子……あの先生は、あなたたちを校長のふりをしてだましていた……」
 説明もなにもいらないのに、勝手に始める美樹。
 でも、そのぐうたらした説明が終わらないうちに、状況は動いた。
どたどたどたっ!
 「大丈夫なのか!?」
 かなり遅ればせながら、駆け付けてきた先生や生徒たち。
 まず、その人たちは、呆然とする良昭クンを見つめ、それから、ゆっくりと視線を移して……
 「………!」
 見たこともないような「生物」を目にして、絶句した。
 「最悪じゃない、こんなときに……」
 そう、あたいはつぶやくけれど、もちろん誰も聞いてない。
 「……セシーリア先生って、怪物だったんだ………」
 誰かが、ぽつり、と、そんなことを言った。
 そして、緊張した空気の中、どさくさまぎれに。
 「……逃げたぞ!?」
 ダンディ男の声を聞いて視線をすばやくずらすと、もうそこには美樹は居なかった。
 「……仕方がないか……帰ったら少々お叱りを受けることになるだろうが……」
 それに続いて、男の人、シャルム先生の順で、すっ、と、何もない空間に消えていった。
 「あ……美樹の奴も、逃げちゃった……」
 そして、それと同時に。
 シレスト先生にかけられた「呪縛」のようなものは解け、あの一対の羽根も跡形なく消え去っていた。
 けれど、あの姿は、きっちりと目に焼きついてる……
ざわざわざわ。
 やっぱり、かなりインパクトはあったらしく、しだいに生徒のみんながざわつき始めた。
 『どうなってるの……?』『気持ち悪い……!』なんて声も聞こえる。
 あたいはふと、我に帰った。
 このままじゃヤバい。
 「ともかく!ここはあたいたちで処理するから!ね!?」
 「……いや、教師が異界の者だったとなると、学園の信用にかかわる。」
 あたいは今日はツイてないらしく、先生の1人がそんなことを言い出した。
 「ここは一旦校長に相談して、その後PTAに……」
 校長に相談!?そんな無茶な、目の前に居るのが実は校長なのに!!
 でも確かに今、シレスト先生は、『セシーリア』の格好だった。
 ……うーん。このままいけば、どうにかなるかも……?
 けれど、あたいにとっては今日は大凶か仏滅か三りんぼうか13日の金曜日だったらしく。
 ……シレスト先生は、ゆっくりとあのヴェールを脱ぎ捨てた。
 「え……校長先生!?何で??」
 みんなのざわめきが、さらに大きくなった。
 「先生!どうしてバラしちゃうのよ……こんな時に!」
 「そろそろ身分を偽るのも、限界になったと思います。」
 そんな……そんな……これで……
 「だからって!校長のふりしてセシーリア先生をやめさせちゃう扱いにしちゃえば、誰も文句言わないし、学校の信用も保てるじゃない!」
 「でも、そのやめさせることを本人に通達するのも校長の役目ですが。」
 「だって!でもさ!でも!……でも……」
 あたいは、めちゃくちゃになっていた。
 このままじゃ……
 「ともかく、この件をPTAに打診してから、決定することとします。いいですね?シレスト校長。」
 「だめだって!」
 そう叫ぶあたいを無視して、先生はゆっくりとうなずいた。

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