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学園物語4 TERM 1
 

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第5章
 学校の一角、校長室。
 夜の8時を過ぎたというのに、そこだけ明かりがついている。もちろん、あたいたちがそこに集まっているからなんだけど。
 で、その中。
 あたいの目の前には、さも当然のように、さっきの人(?)が座ってた。
 普通の人間と比べて、身長は7割5分くらい。人間とハムスターとが2対1…3対1かな?…くらいで混ぜこぜになったような姿で、何だかちょこんとしてて愛らしい。
 良昭クンと先生には、隣の秘書室で待ってもらうことにして、あたいは1人で、そいつに尋問しようとしてた。
 なぜかって?…やっぱり、興味あるじゃない。
 「……ねえ、率直に聞くけど、いったい誰なの?あんたって。」
 「あれ。」
 あたいが聞くと、すぐに壁のほうを指さした。
 そこには、歴代の校長の写真が白黒で飾ってある。
 「あの、いちばん左側。」
 いちばん右側には、シレスト先生の写真と名札が飾ってあるから、左側といえば、どう考えても第1代校長、汎世界魔法学園の創設者になる。
 で、言ったとおり、そこには見事にそいつの写真が飾ってあった。
 『第1代校長 トリエス=シャルム』
 「ちょ、ちょっと待ってよっ!!そしたら、どう考えても死んじゃってるじゃない!」
 「死んでなかったら、壁のすり抜けなんかできるわけないでしょうが。」
 「ないでしょうが、って…もしかして、あんたこの学校にとりついた悪霊!?前のゼリーおばけ事件もあんたのしわざでしょっ!?」
 「……なんで自分の創立した学校になんかとりつくのよ。」
 ちょっとだけ機嫌悪そうな顔になって、そのシャルムとかいう人は続ける。
 「…それに、その逆。あたしは、こんなことしてるの。」
 と、かっこつけて自分の名刺を見せる。
 幽霊が名刺持ってどうするんだか。
 「えーっと…『天上界ポルターガイスト捜査局局長・天上界出入霊管理局事務局長 トリエス=シャルム』…なんかうさん臭いような気がするんだけど。」
 「事実よ。そうじゃなかったら、幽霊がこんなとこでのうのうと座ってられるわけないでしょ?死ぬと、天上界に無理やり引っ張って行かれるはずなんだからね。」
 死神がデカい鎌持ってやってくる、なんてことを言うつもりなんだろうか。
 「で、もちろん、その引っ張っていく仕事をしてるとこの局長が、あたしなの。」
 出入霊管理局長、っていうのが、その役なんだろうけど。
 「なら、あの黒づくめの恐怖の死神たちの親玉!?」
 「そんな言い方ないでしょうに。…ま、確かにそうといえば…」
 「よ、寄らないでっ!悪霊退散!悪霊退散!悪霊退散っ!!」
 け、ケガラワシイっ!!
 あたいはあんまりにも驚いて、なぜかそこらじゅうにあったニンニクや十字架やお守りとかをぽいぽいぽいと投げつけた。
 「…あんた、吸血鬼と勘違いしてない?」
 「は、ははははは……やっぱし、違ってたっけ。」
 でもさ、あんまりにも話が大きすぎるよね、どう考えても。
 「でもさ……だいたい……その姿。」
 「あ…やっぱり、もうこの時代の人って知らないのね。」
 と言うと、いきなり本棚から勝手に『原色生物大事典3』を引っ張り出し、ぺらぺらとページをめくりだす。
 校長室にこんなものあった?
 「えーっと……そう、これこれ。」
 そして、こつこつと、あるページの一か所を指でたたいた。
 「…?…『フェリアン、学名Fairious Mouse 絶滅種 人工種/製薬実験のために根本製薬(株)が遺伝子操作により培養・開発した新種。生殖能力を持たず、根本製薬が生産を中止してから60年後に絶滅した。』……絶滅しちゃってるじゃない。」
 「だから、絶滅しちゃってるから生きてないんでしょうが!」
 ははは…なるほどね。
 そして…あたいが冷や汗かきまくり、シャルム先生(?)がぷんぷん怒ってると。
ドシャアァァァァンッ!
 「…!?」
 物が倒れた音に何かを感じ取ったらしく、突然立ち上がるシャルム先生。
 「……何です!?」
 「どうしたんだ!?」
 そして、騒然とし始めた校長室。
 もう、物音くらいでこんなにビビらないでほしいんだけどな!
 …と、一人だけ思っていたあたいは、アサハカだったのかどうか。
……………
 「あいた……たたたたっ……くそ、また瞬間移動をミスったか……」
 音のした方、つまり生徒用玄関口の方へ走って行くと。
 靴箱を3組ほど将棋倒しにして、何だかものすごーく『だんでぃ』な男の人…大人の風格と若々しさを兼ね備えて、白馬に乗ったらたいていの女の子は3秒でノックアウトできそうな人が、無残にも大量のスリッパに埋もれてもごもごしている。
 「…あんた、誰?」
 本日2発目の必殺あんた誰攻撃。
 「……………。」
 スリッパを全部どけて、顔をしかめながら立ち上がるけれど、返事はない。
 「真里、あんなのとかかわったらろくなことがないぞ?」
 隣からぶつぶつと、良昭クンがつぶやいてくる。
 「ヤキモチ焼かなくてもいいじゃない。」
 「そういう意味じゃないわい!それに、同じことはあのシャルムとかいう死神オバケ女にも言えるんじゃないのか?」
 「…誰が、死神オバケ女って……?」
 あーあ、シャルム先生に聞こえちゃった。
 「確かに、あまりかかわりあいになって面倒なことにはしたくないですが。」
 「そ、そうだろっ!?ほら真里、シレスト先生もそう言ってるじゃないか!」
 「……ですけれど、事情も知らずに嫌うのも問題だと思いますよ?」
 「ほら!良昭クンこそ、考え直したらどうなのよっ!」
 なんだかシレスト先生にいいように扱われてるような気もするけど。
 ……そんなことするような先生じゃないよね、ね?
 「……真里、あいつ、逃げる気だぞ。」
 靴箱とスリッパをどけ終わったそいつは、何をしたかは知らないけれど、ふわっ、と、空中に浮いた。
 「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
 そいつを追いかけて、死神シャルム(あたいも口が悪いね)が走る。
 「追うか?」
 「うーん……どうせ、用事があるんなら向こうからくるでしょ?」
 「なら、オレたちは普通に待ってればいいってことだな?」
 「そう。いちいち追いかけるのも手間だし。あんまり謎解きなんていうのも面倒臭くて趣味悪いし。それに、もし追いかけるとしたら、シレスト先生まで行くことになるから、明日の授業がブチ壊しだしね。」
 あたいは別に、二枚目の男を追っかける趣味は持ってないから。
 それに、たぶん、さっきの男の人とシャルムって人は、何か関係があるんだろう。そうすれば、もし解決したい問題があるなら、2人連れ添って戻ってくるはず。
 「それより、早く戻らないと…良昭クン家にみんな呼んであるから、今頃誰もいないのに不思議がってるわよ。」
 「そうなのか?オレにも断らずに…ま、いいけどさ。今夜は派手にいくか!」
……………
 そうして次の朝。
 昨日のパーティーは夜中までつづき、通信カラオケその他で盛り上がったのはいいけれど、そのせいであたいはべろべろのぷにゃぷにゃになっちゃってた。
 「……ふにゃあ……」
 相変わらず、机に突っ伏してぐにょんぐにょんのあたいだけれど、補習と再テストの嵐をまともに食らっている身だから、眠るわけにもいかない。
 良昭クンはまた寝てるけど。
 「残りの水溶液中のナトリウムは、炎色反応で黄色…」
 たぶん化学の授業なんだろうけど、声が頭の中に響くだけで、内容はさっぱり理解できない。
 ただでさえ分からないのに、寝ボケ頭で理解できるもんか。
 そう思ってふてくされていると。
ばたん。
 「村西先生?」
 「……………。」
 化学の村西先生が、無言のまま急いで後ろのドアの方へ歩く。
 「……どしたの?」
 後ろを振り返るのも面倒なので、突っ伏したまま隣の女の子に聞く。
 「突然セシーリア先生が入ってきて、村西先生を呼んだのよ。」
 「………へ?」
 わざわざ怪しい魔術教師の格好して、何の用なんだろ。
 「おーい、加藤と村尾。」
 「はい!?」
 ひねりを入れて振り返りながら立ち上がるあたい。
ばきっ!
 「んぐぐぐっ!!?」
 ついでにその勢いで、良昭クンの顔面にパンチを入れて起こしてあげる。
 「校長先生がお呼びだと、セシーリア先生が言ってるぞ。」
 「は?……はいはい、はい。」
 一瞬ワケがわからなくなった。だって要するに、『シレスト先生がお呼びだってシレスト先生が言ってる』って解釈しちゃったから。
 「……また……校舎のどこかでも壊したのか?」
 寝ボケた顔をして、良昭クンがあたいに言ってくる。
 「違うって。」
 良昭クンとあたいがそろって呼ばれるとくれば、あたいが山吹っ飛ばしたとか家吹っ飛ばしたとか体育館吹っ飛ばしたとかいうお説教しかない。
 そのせいか、みんなくすくす笑ってるけど、断じてあたいじゃない。
 確かに今日も魔術ミスったけど、被害はたったガラス1枚。奇跡でも起こらないくらい平和だったというのに。
 「なら、いったい何なんだよ。」
 「知らない。」
 「おいそこの2人、早く来い!」
 村西先生に急かされるがままに、あたいは教室の外へと出て行った。
……………
 「あー……やっぱり、魔女装備は苦しいー………」
 黒系統でまとめてある上着を脱ぎ、でっかいとんがり帽子とヴェールをはずしながら、シレスト先生はそうつぶやいた。
 廊下を歩きながらそれをやるんだから、もしかして先生って器用かも。
 「ね、あたい、無意識のうちにモノとか壊したりした?それとも凍らせた?洪水起こした?も、もしかして、水の精霊さんが勝手に出て来たとかっ!?」
 精霊さんには、イタズラしないでって、よーく言い含めてるはずなんだけどなぁ。
 ともかく、呼び出されたものは仕方ない。
 「寝言が『火球』の呪文だったとか、そんなとこじゃないのか?」
 「そんなの寝言で言うわけないじゃない!」
 自分で言うのも何だけど、留年ばっかりするあたいが偶然魔術を発動させるなんて器用すぎるマネなんかできるはずがない。
 「違います。今回のは説教じゃありません。」
 「じゃあ……何なの?」
 「実は、このところものすごく変な情報がよく寄せられるんです。」
 「校長とセシーリア魔術師のディープな関係がバレたとか?」
 「違いますっ!まだバレてませんっ!」
 かなり怒りぎみになりながら、シレスト先生。
 「…でもわざわざ、あたいを授業中なんかに呼び出すんだから、重大な……こら良昭クン、聞いてなさいよっ!」
ごつんっ!
 「むにゃあ……」
 歩きながら眠りこけてた良昭クンを、廊下の壁にぶつけて起こす。
 「……なんだよ……眠いんだぞ、オレは……」
 「あたいたちはめちゃくちゃ重要な話やってるの、じゅーよーな!それを眠って聞いてないなんて、減点100に値するわっ!というわけで、早速罰よっ!」
 「ちょっと待てよっ!」
 「問答無用!!とぅりゃあぁぁぁぁっ!!」
ズザザザザザザザザァァァァァ!!!
 あたいの広げた手の平の先から、巨大な津波が押し寄せる!
 「うぎょえぇぇぇぇっ!!」
どっぽーんっ!……
 ……あー、すっきりした。
 あたいの水の精に直接頼むから、呪文なしでやれてお手軽だしね。
 「……廊下、びぢょびぢょじゃないですかっ……」
 「なら、これから炎系で乾かすけど。」
 「真里さんがやったら燃え尽きますっ!」
 なかなかちゃんと予想できてるね。もちろん、その通り。
 「……で、気を取り直して、その重要な話って…?」
 「ええ、実は、先程から何度も奇妙な情報の電話が入ってまして…このあたりの人からなんですが、『雪女に氷づけにされた』とか『雪女に殴りかかられた』とかいう被害情報が、女性の方からだけ入っているんです。」
 「女性から、だけ?」
 「はい、そして、ここからは予想なんですが、たぶん……」
 かなり神妙な顔をしながら、シレスト先生は言葉を続ける。
 「……あのキャラが、たぶん真里さんを探しているのじゃないかと……」

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