+-----学園物語4 TERM 1-----+
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第4章
いやまた、大変だったのなんの。
透明の怪物ってば、何だか実はわけわかんないゼリーおばけで、そいつがあたいを恨んだばっかりに水の精霊と融合して、でも実はその精霊はあたいの友達で……
まあ、なんともはや、としか言いようのないスジガキだけど、本当にあったことだから仕方がない。
で、ここまでがおさらい。そしてここからが後日談。
あのゼリーおばけ、実にオソロシイことに、日本中の恋人ナイ男達の性欲がこりかたまった怨霊……つまり、精神エネルギーの塊だったわけね。だから平然と精霊なんかを喰えたりしたんだけど。
ここで問題。
なら何であたいを触ったら溶けちゃったり、封じられちゃったりしたんでしょーか。
実は、答えは……ナゾでした。
精神エネルギーの塊だとしたら、あたいが言った『負の要素』がどうとかいう説明はみんなおじゃんになってしまう。
ならどうなんだと言われるとキツいけど。
それにだいたい、そんなシロモノがどうしてわざわざ和歌山に現れたのかも、まだ未解決どころか、手掛かりすら1つもない。
ともかく、そういうことで、今回の事件は解決のつかないまま野ざらしにされて…
……………
「パーティーだっ!あそれ、パーティーだっ!」
ずりずりずりずりずりっ!
「や、やめてくださ、きゃ、うあーっ、」
「パーティーだったらパーティーだっ!!」
ごりごりごりごりごりっ!
右手にはおもいっきし膨らんだ手提げバッグ。
左手にはおもいっきし文句を言うシレスト先生。
両手でフルパワーを出して総計100キロ超の物体をひきずるあたい。
あ、弁護のため、人間以外の物体ですでに50キロは超えてることは言っとくわね。
「今日は、良昭クンちで、パーティーだぁぁっ!!」
村尾良昭、当年もって18歳!12月5日のこのよき日を、さあみんなで祝いましょう!
というわけで、冬のさぶーい中を、こうしてその準備をしに、連絡せずに抜き打ちで良昭クンちへ出かける所。
もちろん、みんなも呼んであるんだけど、まずはあたいが行かないと。
「だから何でわたしを引きずっていくんですかっ!?」
「自力じゃ来てくれそうにないから。」
「そういう意味じゃなくて…」
「あたい料理できないからみんな先生に任そうと思って。」
「なら家庭科の尾登先生に頼めばいいじゃないですかっ!」
職員室で『セシーリア先生』してたシレスト先生を無理やりひきずり出してきたもんだから、外見はいつもと全然違って、怪しさ漂う魔道オタクって感じだけど、一枚ひっぱがせばいつもの先生が出てくるのは当たり前。
「定期テストの採点で、忙しいんですよっ!?」
「あ、そういえば、今日はテストの最終日だったような…」
「……真里さんのテストは、もちろんまず最初に見させていただきました。」
「ふーん。で、どーだった?」
「でっかいドーナツです。」
「……ドーナツ?」
もしかして、あたいらしくなく正解ばっかりで、マルがいっぱいついたとか。
まさかね。
いくらなんでも白紙で出すわけにはいかないけど、じゃあ何書くか、っていうネタに困って、『ダルマの親子』とか『唯我独尊』とか『タコイカスルメ』とか『かわいい真里ちゃん』って書きまくったのがあのテストだったから。
あー、今回も黒魔術理論は赤点だろーなー。
「どういうこと?まさかごほうびにミスタードーナツへ連れてってくれるとか。」
「赤いドーナツです。」
「あ、赤い!?タバスコかけたドーナツなんて食べたくないのにっ!」
「これですっ!」
じゃじゃーん。
取り出だしたるは先生ご用達、安物ワラ半紙に刷ったテストの答案用紙!
「第1問、1番バツ、2番バツ、3番バツ、4番バツ……」
ちょろちょろと目を動かしてたどっていくと、マルが全くない。
ぜんぜんない。
英語で言うと、『ノー・コレクト・アンサー』。
ついでに俗語で言うと、『のび太くん2号』。
「第7問、バツ……と。うん。我ながらパーフェクトだわっ。」
「もうわかりましたよね。」
「……うん……」
冷や汗たらたら。
答案用紙のいちばん上側には、確かにおっきなドーナツが1個へばりついていた。
すなわち、『0点』と。
「ね。」
「はい?」
「名前の書き賃って、ないの?それともデタラメ料1個1点とか…」
「ありませんっ!!」
どんっ!
かなり怒り散らすシレスト先生は、さらに大きなハンコを取り出して、答案用紙にとどめをさした。
「つ、追試……」
大きなハンコの文字は、あたいにも確実に、『追試』と読めた。
「でもここでラッキー・ニュースがあります。」
「何それ。」
「実は……追試は、実技試験なんですよ。」
ツイシハジツギシケンナンデスヨ。
15文字の言葉が、あたいの耳から入って来て、頭の中をかけめぐった。
「う、うそーっ!それって、ものすごーく!」
「……最後のテストで、あまり留年者は出したくありませんからね。」
また出た「いたずらっぽい笑み攻撃」。
…その笑みの向こうには、何かたくらみが隠れていそうな感じ。
「……で、でさ、追試の受験者って、何人くらいいるの?」
「今のところ……2人ですか。」
「……え。」
ついでに、余計なこともあたいは知ってしまった。
たぶん、そのもう1人は、良昭クンだろうってことを。
……………
あるマンションのある一室。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。ぴんぽーん。
……返事がない。
「……留守なんでしょうか?」
プレゼントの山の上に、さらにあたいと同じく0点の答案用紙を乗せて、良昭クンに渡そうと準備したけれど、何度呼び鈴を押しても反応ナシ。
「ぜったい、違うね。」
あたいは知っていた。ぜったいに良昭クンが帰ってること。
「良昭クンは何があってもまずは家に帰るもん。その証拠に…ほら。」
がちゃり、ばたん。
何の抵抗もなしに、鉄の扉は開いた。
「……カギ、かけ忘れただけかもしれませんよ。」
「ないない、ぜーったいない。」
良昭クンは、なぜだか知らないけれど、このマンションに1人で住んでいる。だから、おもいっきり生活力の方はついてるはず。
「……ちょっと待ってて。」
荷物を玄関先にゆっくり下ろして、リビングルームを目指す。
良昭クンはたぶんそこで、寝てるかテレビを見てるはず……
ばたんっ!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
……………
「あれほど言ったのに良昭クンっ!!」
「い、いやその、こっ、これはぁぁぁっ!!」
ばさりとあわててテレビを隠す良昭クン。そのテレビには某社のゲーム機がくっつけられていて、今も電源ランプがついている。
「これはだな、つまりそのっ!あのテのソフトじゃなくてだな…」
と言っているそばから、テレビから流れるBGMが変わり…
『ねぇ、ヨシアキくん……わたし、卒業したら…』
何ともありがちな声が、はっきりとあたいの耳に届いた。
「あたいは知っているわっ!!現在プレイ中のゲームは、某社の有名恋愛シュミレーションゲーム『(自主規制のため削除)』でしょっ!!」
あ、カギカッコの中は、適当にね。
「(ガーン)な、なぜそれが分かったっ!?」
「だって、そこにケースが置いてあるもん。」
カーペットの上には、無造作に『(自主規制のため削除)』と書いてあるCD-ROMが置いてあり、そしてその隣の説明書は、そのゲームのメインキャラの説明と全身像が描かれたページが開かれてた。
「あれほどやっちゃだめって言ったのに、どーしてよっ!!」
「いやあの、それはそのっ……」
く、くそーっ!このにっくき『(…削除!)』めっ!!
何だかあたいよりキレイに見える説明書のメインキャラが、地獄の鬼のように微笑んだような気がして、あたいのボルテージはさらに上がった。
「こんなもの、こうしてやるっ!!」
と、勢いよくその開いたページに足の裏をたたきつけた瞬間!
どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!
「hぉををををををっ!?」
突然テレビまるごと大爆発!
ぶおおおおおおっ!
それと同時に煙幕が張られて、あたり一面はすっかり真っ白。
「ど、どうしたんですかっ!?」
ドタドタドタっ!
先生がびっくりして、廊下をこちらに走ってくる音が聞こえる。
「良昭クン、これって、テレビの整備不良っ!?」
「いくらなんでもテレビが爆発するもんかっ!!」
ぼやっとした影、つまり良昭クン(たぶん)に向かって叫ぶあたい。
「だったらこんなのばっかりやるからテレビが怒ったのよっ!!」
「んなわけねーだろがっ!!」
さらに、右のほう…テレビがあったほう…に、新しい影が1つ。
ゆっくりと煙幕は薄まり始めている。
『ねえ……』
そして、どこからともなくあの声が……
「おい、どういうことだこりゃ。」
「……ま、まさかね………た、ただの幽霊よっ。」
ただの幽霊よと言ったのは、幽霊だった方がまだあたいにとってマシだから。
でも……
現実は、そう甘くは進まない。もっとも、良昭クンにとっては激甘だろうけど…
『ヨシアキくん……わたし、卒業したら……』
さっきのセリフがもう一度、耳につくように聞こえてくる。
そして。
「……まさかね………これってまさかね……あるはずがないよね……」
呆然と立ち尽くすしかなかったあたいの視線の先には、そのゲームのメインキャラが、しっかりとカーペットの上に立っていた。
……しかも、等身大で。
「うそだろ……?」
ゆっくりと近づいてくるそいつを見ながら、また良昭クンも動けない。
そして……
『……卒業しても、わたしとずっといっしょにいようね……』
ばぢっ……
「真里、危ない!」
「……え?」
バンッ!ゴツンッ!
一瞬のうちに、あたいは壁にたたきつけられた。
視界が、かすむ。
『ヨシアキくんは……わたしといっしょにいるの……』
精神的にも、身体的にもショックを受けて動けないあたいの前に、そいつは、ゆっくりと歩を進めて来た。
前に突き出した手のひらが、ぼんやりと光っている。
……とどめを刺す気だ……光熱波系の魔術で……
「真里っ!」
ごめん……良昭クン、あたい、今度ばっかりは、どうにもできないの……
びくっ!
と、突然、そいつの顔にものすごい恐怖の表情が走った。
『あ……あああ……来る……来るっ!』
そして、窓のほうへ走ったかと思うと、見事に壁を「すり抜けて」逃げて行く。
「な………なんだったの、あれ………」
やっとマトモに戻って来たあたいは、爆発したはずなのに壊れてないテレビと、さっきあいつがすりぬけていった部屋の壁を交互に見比べて、呆然としてた。
「さ、さあ……わたしにも、さっぱり…」
「いくらなんでも、あんなことが起こるって、ゲームの説明書には書いてなかったしな…」
「そ、そうよっ!!元はといえばあんなちんちくりんなゲームやってた良昭クンが悪いんだからねっ!あたいが説明書を踏みつけにしたのは、関係ないんだからねっ!」
「違うっ!ゲーム会社の責任だっ!」
「いーえっ!どう考えても良昭クンの…」
とまで言って、またあたいは凍りついた。
「……どうした?」
さっきの壁…あいつがすりぬけた壁の方から、また、今度はおかしな動物が入って来た。
「取り逃がしちゃったか……」
そいつは独り言を言うと、いきなり虫メガネを取り出して、問題のゲームのケースや説明書やらをしげしげと観察し始めた。
「うーん、やっぱり…」
とつぶやいて、また虫メガネをしまい、さっきの壁の方へと歩こうとする。
「待ちなさいよっ!」
「……!?」
あたいの声に、びくっ、と反応して、驚いたような顔であたいを見返した。
「だいたい人の家に勝手に上がりこんでいろいろと観察したあげく目的も理由も何も言わないで出て行こうとしたり勝手に平然と壁すりぬけ…」
「ストップ!」
勢いよくしすぎて大暴走し始めたあたいの口を制して、そいつは言った。
「……ね、もしかして、あたしの姿、見えてる?」
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