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学園物語4 TERM 1
 

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第3章
 結局、シレスト先生も良昭クンの腕も大したことはなくて、次の日……つまり今日は2人ともいつものように元気に学校に来てる。それは別に問題じゃない。
 なら何が問題なんだって言うと……
 今まで平和なド田舎学校だったところなのに、突然あんなのが現れて、3人分のロッカーと壁・床全面を使いものにならなくして、貧乏な学校の財政をさらにキツくした。これが問題。
 これはニャントロ星人の地球侵略の一環だとか、ノストラダムスはこのことを予言していたのだとかいうバカ丸出しのことは言う気はないけれど、やっぱりこの周辺で、何かが起こりつつある、っていうのは、覚悟しといたほうがいいんだろう。たぶん。
 ……でも、フタを開けてみればただのチカン事件以上には発展していない。個人的には、昨日みたいなことはあったけれど……
 のどかな昼休み。
 ぶつぶつと一人で文句を言いながら、感心なことに昨日の後片付けをしようとして…ついでにあの怪物がもう消滅していることを確認しに、ロッカー室の前を通りかかる。
 そして。
 「ぎょえぇぇぇぇぇぇっ!?」
……………
 「な、何だよ、これっ……」
 良昭クンを連れて出直してくると、予想どおり呆然とした。
 何だよこれ、どころじゃない。
 昨日の場合は、ただ単に床にぽつぽつと穴ができてるだけだったロッカー室の床が、今日は何と出血大サービスということで、2メートルほどえぐれてしまっていた。
 「……ね?しかも。」
 と、あたいが良昭クンに説明をするために、そこかしこを指さしてゆく。
 まずはもちろん、巨大になってしまった床のクレーター。
 そして、それよりも問題なのが……
 「……こりゃ、見事だ……」
 「でしょ?……かなり気分悪いけど…」
 いちばん悪いことには、あたいのロッカーから直径1メートル以内の床だけが、ぽつんと残っていたこと。
 状況が分かりにくい人は、しゃぶしゃぶ鍋を想像してくれればいい。あんなふうにど真ん中だけこんもりと山になっちゃってるわけ。その情景はまさにグランドキャニオンのミニチュア。
 「いい仕事してますねー。」
 「してないしてない。」
 削られて…というより溶かされてガタガタになったクレーターの面には、あの酸か分解液かがべたべたとくっついてた。
ベタベタベタベタベタベタベタベタベタベタ。
 ベタが10回でベタベタが5回。
 ベタには単位もあるけれど、やっぱりこっちは気持ち悪い。
 …あれ、「ベタ」って単位、知らない?新聞記事1つが紙上で使う面積って、1ベタ2ベタって数えるのよね。
 ……という、なんかマイナーなギャグはさておき。
ギギャアアァァァッ!ガグァアァァァァァッ!!
 辺りで、不気味な鳴き声が鳴り響いている。しかも、ハモって。
 「もしかして、これって……」
 「確実に、増殖してるな、こりゃ……」
 「増殖って、あいつってあたいに触って溶けちゃったんじゃない!?」
 「…さあ。その恨みで、よけいに増えたんじゃないのか?」
 なら、あのときのはただのぬか喜び!?
 「どうする……?片付けるか?」
 「数も分かんない相手なのに!?」
 いくら何でも、あたいでもこれはたちうちできない。
 「それに、あたいたち2人だけじゃ。応援がいるわ…」
 「そうだな…」
 身構えながら、ゆっくりと後ずさりをするあたいたち。
 ああ、こんな時にタイミングよく、正義のヒーロー(ヒロインでも可)が現れてくれればっ…
 「……教官室に逃げ込むか?」
 今いる廊下の突き当たりには、たぶん体育教官室があるはず。助けを求めるなら、みーんな筋肉ムキムキのここだろう。
 でも、体育の先生は魔術使えないし…
 「あの液体をかけられるよりは、マシかもね…」
 あたいたちは、後ろ向きに歩む足を、さらに早めた。
……………
バタンッ!
 必死の思いですべりこんだ良昭クンは、体重をかけておもいっきりドアを閉じた。
 「ふうっ……あんまり、生きた心地はしないな…」
 「お……おまえら、あの中をくぐり抜けてきたのかっ!?」
 真っ青になりながら、体育の先生その1(仮名)が言う。
 「あの中、って……」
 「怪物がうぢゃうぢゃいたろうに。恐くて通れたもんじゃない……」
がたぶるがたぶる。
 体育の先生って言っても、体だけで、度胸は大したことないわね。
 …と、あたいは、教官室に助けを求めたことをモーレツに後悔した…
ガツガツガツッ!!ゴンガンガンッ!
 「真里っ!開けてきやがるっ!!」
 体重をかけ、ドアを必死で封じようとしている良昭クン。ドアノブ部分は早くももぎ取られ、時々ドアがばたばたと音を立てて開きかける。
 「重いもの!早くっ!ドアの前にっ!」
 本棚とか机とか、果てはタヌキの置物(なんでこんなとこに!?)まで、重そうだと思うものはみんなドアの前に集結させた。
 でも相手はしつこくて、ついにぎしぎしとドアの枠まできしみ始めた。
 「……どうすんだ?……助けを…」
 「この状況でどうやって呼ぶのよっ!?」
 「内線電話はどうだ?」
 ちらりと体育の先生に視線を移すと、横に首を振っていた。
 「うーん……なら、やっぱり叫ぶ。」
 「体育館って別棟にあるから、職員室までかなりの距離だし。ちょっと…」
 「糸電話。」
 「あんた、考える気ある!?」
 「モールス信号。」
 「わかんないわよそんなのっ!」
 「テレパシー。」
 「もうちょっと脳みそ使いなさいっ!」
 「誰かが気づいてくれるまでメシ食って待つ。」
 「……い……いいかげんにしなさいよっ……」
 胸の前でぎゅっと握った拳をがたがたさせながら、かろうじてあたいは言った。
 そうこうしているうちに……
ジュウゥゥゥゥゥゥ…………
 力じゃ開けられないと悟ったか、とうとう溶かすっていう手段に出た。
 みるみるうちに、鉄のドアがぼろぼろになっていく。
 「こうなったら……やっぱり、最終手段しかないわね……」
 「な、何だよそれっ…」
 今からあたいがやろうとしていることに気づいたか、真っ青になる良昭クン。
 「また、校舎をぶっ壊す気か……?」
 「ううん。ちがうよ。」
 ちょっとだけ女の子ぶってみながら、あたいは続けた。
 「ものは言いようだから、ぶっ壊す、じゃなくて、掃除する、って言うの。」
 「いっしょじゃいっ!!」
 と言っているそばで、あたいは呪文を心の中で唱える。
 発動させるのは、『衝界波』レベル12(最大)……一言で言えば、ものすごいでっかい衝撃波が、辺り一帯を津波のようになめつくす!っていう、かなり見た目にも派手なあたいのお気に入りの術。
 でも……
ガチャァァァァァンッ!
 相手が到達する方が、ちょっとだけ早かった。
 あたいは呪文を中断して、身構える。もちろん、次に来ると思うあの必殺チカン攻撃を考えて…
 おや。
 「なんか……集まってるぞ……?」
 光の屈折のせいで、空中に浮かぶ水玉のように微妙に見えるアメーバみたいな怪物が、ぷちぷちと一か所にかたまっていき、人の形になっていく。
 しかも、予想したのとは大違い。なんと女性型。
 「あたい、どっかで見たことある……」
 見たことも何も、それは明らかに『水の精』の形をとっていた。
 あたいには分かる。昔、あたいがちっちゃかったとき、故郷で遊び相手になってもらってた(ちなみに、強引に召喚した)、あの水の精。
 でも、なんか違うような気も…
 「見たこと、あるって?」
 「あれは、良昭クンたちが言うところの『水の精』の姿。だけど。」
 「だけど、何なんだ。」
 「犯人は、おまえだっ!!!」
 びしっ!と、その水の精?に指をつきつけるあたい!
 ……決まった。
 「……んなこと、最初から分かってるって。」
 「そーじゃなくてっ!探偵モノじゃここで盛り上がるのよっ!?雰囲気盛り上げないと!ほら早く、みんなで大げさにびっくりしてっ!」
 「…これのどこが探偵モノなんだよ。」
 良昭クンに言われて、言葉につまったあたいは、マトモに言うしかなかった。
 「なら、マジメに言うから。こいつ、ニセモノよ。」
……………
 そのころ、何となく邪念を感じていたシレストは……
 ……昼メシを食っていた。
 「お湯かけて3分っ。まだかなまだかな……」
 現在『セシーリア』先生の格好をして、じょぼじょぼとカップにお湯を注いでいる。
 「今日も、カップめんですか?」
 隣の先生に質問されると、
 「ええ、最近、忙しいもので…」
 平然とそう答える。
 筆者は知っている。朝寝坊するうえに弁当作るのが面倒臭いだけなんだろが。
 それ以前に!
 何となく邪念を感じてるんなら、さっさと確認しに行け!教え子がピンチだぞ!?
……………
 「聖なる精霊に向かって、偽物とは失礼な。」
 女性にしては低めの声で、その水の精?は言った。
 「だいたいチカンをはたらくとこからして、オトコに決まってるじゃない。それに、こんなえらそばったしゃべり方からしてウソだし。」
 そりゃそうよね。あたいとマトモに遊んでたんだから、いくらやんちゃになってもエラソーな態度を取るほどひん曲がらないもんね。
 え、なぜって?
 そんなの、もしそんな態度取ったら、あたいが例外なく半殺しにするからに決まってるじゃない。
 「この期に及んで、まだそのようなことを申すか。」
 「……それより、怪物のあんたが、なんで逆の要素を持ってる精霊なんかの格好をできるのか、そのへん知りたいんだけど。」
 「……この私を怪物と言うか。愚かな。」
 「いいかげん、芝居をやめたらどうなのよ、チカン怪人っ!」
 そう言ってみると、そいつはしばらく考えて…
 「…これ以上意地を張っても無駄なようだ。」
 「そう、無駄よ。それより、あたいの質問に、答えてくれるわね?」
 「だめだと言ったら?」
 「…うーん……別にそれでもいいけど、言ってソンになることじゃないはずよ。」
 「なら、差し障りのないことだ、別に話してもかまうまい……要するに、昨日のおまえのせいで弱っていた私の体をどうにかするために、死すら覚悟して、ある方法で召喚した水の精の1人を、喰った。」
 たべちゃったって!?しかもよりによってあたいの友達を!?
 「それで、あんた元はオスなのに、今は水の精のカッコしてるわけね。」
 「この説明で異存はあるまい。」
 「…なら、そこまでしてわざわざこの学校を混乱させようとする理由は?」
 「……………。」
 言う気は全くない、という感じで、怪物は一度上を向き、そして……
ドウォォォォォォッ!!
 代わりに、天井まで届く津波を押し付けてきた!?
どぐぁっしゃあぁぁぁぁんっ!!
 しかしっ!なぜかあたいは無傷!
 「なぜだ!?なぜ、津波がおまえを避けた!?」
 あたいに当たる瞬間、あたいがすっぽりと入る穴が見事に津波のど真ん中に空いて、おかげであたいは服すら濡れてない。
 ほかはみーんな、ぐっちゃぐちゃになってるけどね。
 「……バカねぇ、あんたの取り込んだ精霊、何だか知ってるの?」
 「ただの少々若めの水の精だったはずだ。」
 「…ゴメンね、ただの精霊じゃないの。みっちしあたいに鍛えられた、あたいの友達を取り込んじゃったのが運の尽き、ってわけね。」
 聞いた瞬間、怪物は何も言わなくなった。
 これから起こるだろうことは、簡単に想像がつくから。
 「…良昭クン。あたいを、あの怪物の方に投げてくれる?」
 「ま、真里をかっ!?」
 罰でも後であるんじゃないかと思ったみたいで、良昭クンは一歩後ろに下がる。
 「あ、罰なんかないし、気にせずおもいっきり投げてくれていいから。」
 「………本気か?それともギャグか?」
 「……本気。」
 そう言って見つめると、良昭クンは無言のまま、あたいをひょいとかつぎ上げた。
 あたいはやっぱり体重が軽いから、弱っちい良昭クンでも、がんばればこのくらいはできるんだと思う。
 それとも、もしかして家で秘密の特訓でもしたとか!?その制服の下には、なんと真里ちゃんかつぎ上げ養成ギブスなんかつけてるとか!?
 「うぉのりゃあぁぁぁぁっ!!」
 そして、日ごろの恨みでも込めて、おもいっきし投げた!?
 方向は、正確!
じゃぼんっ。
 …水に浸かる感覚がちょっとした後、あたいの体は完全に、精霊の形をした怪物の中に沈んで…
ギャオォエェオォォォォォォォォォォォッ!!
 物凄い断末魔の叫びと共に、その体からゼリー状の塊が吐き出された。
 「良昭クン、そのゼリーみたいなのを、ポリ袋に詰めちゃって!」
 「わかったっ!!」
 手近にあったモップとゴミ袋をひっつかみ、袋の中にゼリーを掃き入れる。
 その間、『怪物ゼリー(笑)』が吐き出された後の残りの液体は、どんどんあたいの体の中にしみこんでゆく…ように見える。
 「その袋、焼却炉にそのまんまぶち込んじゃうから、持って来てくれる?」
 良昭クンにそう言って、あたいは先に、靴箱がある方へと向かった。
……………
 白い煙をあげながら、焼却炉の中じゃ、あのゼリー怪人が、干上がった池の底みたいにぱりぱりのかすかすになっちゃってるんだろう。
 あー、でも今回はあんまし後味がよくないなー……
 「そういえば、なんでおまえの体に吸い込まれたんだ?」
 「あ、あれ?」
 「も……もしかして真里は、パンパースの超吸収体でできているのかっ!?」
 「んなわきゃないでしょがっ!!」
ごつんっ!!
 ゲンコツ一発!
 「つまりね、あたいがあの時、液の中に沈んだでしょ?あの液って、さっきのゼリー怪人とあたいの友達の水の精がごっちゃまぜになったものだったわけ。もちろん不安定よね、それって。で、その中にあたいがぶちこまれたもんだから、耐えられなくなった怪物の方が、混ざっていることができなくなったの。」
 「ふんふん。」
 「でも、水の精の方もかなり弱ってたらしくて、現実世界にそのままじゃ居られなくなって、そのままあたいに宿っちゃった、というわけ。」
 「……なら、その水の精か何かが、おまえに取り憑いてんのか!?」
 「ま、水系統の魔術は苦手だから、ちょうどいいしね。」
 ちっちゃいころに自分がよく遊んだ友達を、自分に宿すなんていう変ちくりんなことになるとはあんまり思わなかったけど。
 これも、運命の偶然、ってことで、許して。
 「害はないんだな?」
 「そりゃもちろん。」
 「ん。なら、いいんだ。」
 確認穴からちらちら見える炎を見つめながら、良昭クンはつぶやいた。
 「さて、と。でもさー……あたいのストレス、解消できてないのよねー…」
 「………えっ。」
 冷や汗を タラリと流す 村尾かな
 「ね、あの山なんか、手頃だと思わない?」
 以前吹っ飛ばしたせいで、右半分がみごとにえぐれている山を指さして言う。
 「こらこら、また草木一本生えない土地を造成する気かよっ!?」
 「というわけで、がっちりフキ飛ばしましょーっ!!『衝界波』!」
ぐぉおおぉぉぉんっ!!どぎゃばぁぁぁぁぁぁぁっ!!
ずぐぉごごごごごごごごどずぅぅぅぅぅぅんっ…………
 あたいらしくなく、見事に魔術は発動して…
 かろうじて残ってた左半分も、きれいさっぱり消え去った。
 「あーあ、やっちまったな……責任持って地形図書き換えとけよ。」
 「うーん、これですっきりっ!!スカッとしたところで、昼ごはん食べに戻りましょ。」
 「……お、おまえはまた……なんつーこった……」
……………
ずるずるずるずるずる。
 「はーっ!やっぱりラーメンですよねっ!!」
 結局……
 ……今の今まで、シレスト校長はラーメンを食っていた。
 もちろん、さっきの爆発音も聞いていながら。
 「セシーリアせんせぇぇぇぇぇぇっ!!」
 突然、真っ青な顔して、教頭が駆けてきた。
 「ま、真里の奴が、また山1つ吹き飛ばしましたっ!!」
 「……そうですか。」
 カップラーメンのくずを処分しながら、のうのうと言う。
 「そうですか、じゃない!山1つですよ、山1つ!!」
 「はい、分かりました。ご苦労さまです。」
 その瞬間、教頭は完全にショックを受けた。
 ……この先生、何考えとるんじゃ、と。
 しかし、彼女は、何も知らずに単にボケをかましているだけではなかった。否、いつのまにか事情のすべてをのみこんでいたのだった……らしい。
 「どうやらこれから、忙しくなりそうですね……。」
 しかし、事情知ってたんなら、助けに行けよ。

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