+-----学園物語4 TERM 1-----+
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第2章
なんだかどうもしっくりこないことは事実。
なんでシレスト先生が、自分のプロフィールを混乱させなきゃなんないのか。
校長という職務もあるのに、なんで教師・セシーリア=アーヴェルとしてあたいたちのクラスに来たのか。
ああいう形とはいえ、なんであたいたちにだけそれをバラしたのか。
それに何よりも、なんでこんなド田舎の学校に来たのか(笑)。
大量の質問が、あたいの頭の中でごっちゃになって、何だかバカらしい気分。
もちろん、3時間目以降の授業は、そのことでうわのそら。今日は何をやったのかすら思い出せない。
三食よりも、良昭クンいぢめよりも好きな、破壊三昧の『魔術実践』の時間ですら。
放課後に校長室に行ってみたし、職員室にも寄った。けど、どちらも空っぽ。なら『セシーリア先生』の机に?と思ったけど、そこには寂しくチョーク箱とテキストが載ってるだけ。
あたいとしたことが、まんまと逃げられちゃったのだっ。
しっくりと来ないうちに、一晩が過ぎ、一日が過ぎ、一週間が過ぎたけど、いくらあたいがたずねてもそこまでは答えてくれないらしい。
毎日毎日『セシーリア』を名乗って授業に来るだけ…
……そして見事に10日が過ぎた昼のこと。
「ねえ……聞いた?最近よくわからない怪現象が頻発してるんだって。」
「えーっ??それって、あの『学校の七不思議』っていうやつ?」
「ちょっと違うみたい。なにしろ内容がマヌケだもの。」
「マヌケって……」
「その怪現象は、決まって女子更衣室で起こるのよ。」
「え……?」
「でね、着替え中になんか胸とかおしりとか触られるひやっとした感覚があるわけ。痴漢かと思って振り向いたら、まわりにはそれらしき人はいないの。」
「でもさ、それって友達がふざけてやってるとか……」
「それがね、みーんな、1回以上おんなじ目に遭ってるのよ。しかも相手のほうも『選ぶ』らしくて、あの、体じゃ学年トップレベルの文香さんなんか、12回もやられたとか聞いたしね。」
…という、どうもわけのわからない、いわゆる『女子の噂』を耳にしたあたいは、早速試したけれど…
……女子更衣室で(わざと)着替えてても、全くそんな反応はない。
『その怪現象は、触る人を選ぶ』
なんでよぉぉっ!あたい、そんなに嫌われてるのっ!?
……それより先に、試すな、って意見もあるだろうけど。
「良昭クン、まさかあんたじゃないでしょうね?」
「……オレは透明か?どこが透明だ!?ええっ!?」
手近な所…つまり良昭クンから問いただしてみるけれど、反応なし。
当たり前よね。んなことしたらあたいに瞬殺されるのが目に見えてるだろうし。
「でもさ、あたいを避けるっていうとこが引っ掛かるのよね……」
「だから言っただろ、全身から殺気のオーラが吹き出してるんだって。」
「そんなバケモンじゃないわよっ!」
ばぎっ!!
あ、ついついまた手が出ちゃった。
最近なんか条件反射的に良昭クンを殴っちゃってるから、どうにかしないと。
「をごごごごっ……痛ぇっ……まあ……とにかくそれは冗談として、第三者的に見ると、まず最初に痴漢の被害に遭うのはエルフと相場が決まってるからな。」
「自分のこと言うのも何だけど、かなり狙われることが多いもんね。」
ちなみにあたいの場合もよくあった。電車内でオヂサンがすりよってきたり、銀縁メガネをかけててしかもちょっと太ったアブないオニーサンが『自主開発18禁ゲームのデータにするんだ』とか言ってデジカメでばしゃばしゃ撮って来たり、その他もろもろ挙げれば数え切れない。
だから、そのせいであたいが『宇宙の果てのそのまた果てまで相対性理論を完全無視してぶっ飛ばした』人の数も数え切れない。
や、やばっ、そんなことばっかりやってたら、アインシュタインに怒られちゃうかも。
「とすると、真里を避けたということは、原因が2つに絞られる。」
「…真面目な話してるんだから、真面目に答えてよ。」
「わかってる。その2つというのは、内部事情を知る者が透明化しているか、それともその痴漢野郎が実は魔物であるか、そのどっちかだ。」
「待って。前のほうは分かるんだけど、後のほうの理由は?」
「…怪物なんだから、精霊系のエルフは避けるだろ。」
珍しく、しかも良昭クンらしくなく、理屈に合った答え。どうもあやしい。
「ね、それ、誰かのウケウリ?どうせシレスト先生がそんなこと言ってたんでしょ。」
「…………うむむ、バレたか。」
……………
「うーん……」
シレスト先生は、更衣室のはじっこをルーペでじーっと観察していた。
……まさか、イジけてアリんこの観察でもしてるとか。
「せーんせーっ!わかりましたぁー?」
「…今アル・トイーナ反応を調べているところです。」
「あ……あるといいな反応?」
……魔術解析で習ったような気もするけど、あんまり思い出せない。
でもやっぱり、有ったら良いんだろうか。
「特殊な魔術をかけると、邪念を含んだ魔物の体液が蛍光を発する反応です。」
「そう、それそれ!……って、やっぱり怪物だったの?」
「そのようですね。FBIの未確認物体データバンクにも問い合わせてみましたが、今回のような事例は登録されていないようですけれど…。」
ちなみに、あたいたちの時代のFBIは、読者さんたちの世界のFBIとは違って、あんまりそういう機密とか極秘とかいうものは扱ってないので、ある程度それに適切な人なら誰でも利用できるようになっている。
だったらすでにFBIじゃない、って言うそこのあなた。まあ、別に名前を変えてもいいんだけど、やっぱしそうすると貫録がないしね。それだけ。
「消える魔物……ですか。魔球ならまだしも、これじゃあ厄介ですね……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、ぽつぽつと続く蛍光するシミをたどる。
「手伝おっか?」
「構いません。もうそろそろ手掛かりが見つかるはずですから…ほら。」
突然先生が、あるロッカーに厳しい視線を向ける。
そのロッカーの名札は、『長沢文香』……
「……やっぱし。」
言うまでもないと思うけど、『女子の噂』の中で出て来た、学年最高峰ナイスバディおねーさん。
スリーサイズの値は、勝手に想像してちょーだい。
「選んでる選んでる。」
「余計なこと言わないのっ!!」
ごべきっ!!
あ……また良昭クン殴っちゃった……しかも今度は出力10割の殺人パンチで。
それはそれとして……
その『文香』のロッカーのまわりには、蛍光するシミがベタベタといくつもこびりついていた。
もちろん、女子更衣室全体にわたってべたべたと染み付いているんだけど、特にそのあたりはひどくて、まるでペンキをこぼしたように全面が光っていた。
でも、あたいのロッカーの前だけ全くついていないというのはどーいうことなの?
「今誘い出すには、ちょっと人数が足りませんね……」
「3人でだったらつかまえられるんじゃない?」
「……いえ、相手はなにしろ見えませんから……たぶん。」
あんまり厄介なことにはなってほしくないんだけど…個人的に……
どんっ!!
と、突然、良昭クンがあたいを突き飛ばした!
「と、突然何すんのよ、怪物かと思ったじゃないっ!!」
「その、怪物だっ……」
良昭クンの右腕の制服に穴が空き、煙か湯気かが立ちのぼっている。そこから見える肌は赤黒くただれ、ひどい火傷のようにも見えた。
「……何、それっ!」
「どうやら相手は、強酸を浴びせてくるらしい……」
いくらなんでもひどすぎる。ただの酸なら突然ここまで強烈に焼けたりはしないはず。たぶん、特殊な分解液…とでも言えそうなものを吐くんだろう。
右腕に当たって飛び散った残りのその液体は、床のところどころにぽつぽつと穴を作ってしまっている。
「また来ますよっ!」
「良昭クンは外に出といてっ!」
ばしゃあっ!……じゅううう……
ロッカーの扉2つが、ぼろぼろになって崩れ落ちた。
「早く出ときなさいよっ!あたいたちもすぐ退却するからっ!」
「…っ……でもっ……」
「ぐずぐずしてたらまた火あぶりの刑にするんだからねっ!!」
……良昭クンが走り出て行ったことを確認して、あたいたちもゆっくりとロッカー室の扉のほうへと近寄って行く。
その間にもどんどん液体は吐きかけられて来て、床といい壁といい、そこらじゅうがでっかいくぼみだらけになってしまっていく。
「とにかく、ひとまず相手を閉じ込めますよっ!」
半開きの状態になっている扉に、あたい、そして先生の順で、素早くすべりこみ、勢いよく扉を閉めた。
ばたんっ!!
「……ふうっ……全く……何なのよあれっ……」
「厄介ですね……透明なうえに、溶解液まで吐きかけて来るんですから…」
でも、ほっとしたのもつかの間!
ドガシャアァァァンッ!
「っ!」
扉はちょうつがいごと勢いよく外れて、先生を直撃する!
「先生っ!?」
そのまま扉の下敷きになって、勢いよく床に頭を打ちつけたらしく、先生は全然答えてくれない。
それも大変なことだけど、さらにあたいにはそれを超えたものが迫っていた。
「……ど……どこよっ!!セコいわよ姿を現さないなんてっ!」
やみくもにぶんぶん腕を振り回してみるけれど、感触どころか当たりさえしない。
「で、出て来なさいよっ!ど、どんな怪物だか知んないけど、あたいに、け、ケンカ売るなんて、50億年早いわっ!」
50億年後には、太陽系、なくなっちゃってるよーな気が……
いえいえ、今はしょうもないボケかましてる場合じゃない。
「どこよっ!」
と、叫んだ瞬間。
ぴたっ。
冷たい感触が、あたいの胸の辺りに……
……触られた!?
やっぱしあたいの体もそう捨てたもんじゃないのよっ!ふっふっふっ。
……じゃなく、とにかく手だか足だか触角だか知らないけど、その感触は、さっきあたいたちに分解液を浴びせかけて来た、あの怪物なんだろう。
でも、何で今まであたいを避けてたんだろ……
キギャアアァァァァッ!グゲェェェェェェェッ!
突然、甲高い妙ちくりんな鳴き声がしたかと思うと、何もない空間から、ぼたぼたと粘っこい透明な液体がこぼれ落ちて来た。
そして、焦げたような臭いと、煙りが立ちのぼる。
……でもそれは、その液体がこぼれた床からじゃなく、そのぼたぼた落ちて来る空間からだった。
つまり、分解液がこぼれてるんじゃない。
「溶けてる……?」
その怪物が、あたいを触らない理由は、これだったんだろう。
つまり、『負』の要素で成り立つ怪物の類いは、『正』の要素にじかに触れると、火傷してしまったり、存在が崩壊してしまったりするんだろう。
妖精族は、もちろん『正』の要素が強い。
…『正』の要素が強いからって、才能とか性格とかには直結しないみたいだけど。
とはいえ、あたいだってその妖精族のはしくれ。
「て、いうことは……退治しちっゃたんだよね……」
呆然とするあたいの目の前には、その液体のせいで、まん丸く水たまりができていた。
……………
「痛い、痛いって先生っ!……え、もう退治しちまったのか??」
保健室の先生に消毒してもらいながら、良昭クンは驚く……というよりどう見ても呆れ果ててた。
「何よ、そんなに呆れることないでしょ!?」
「で、でもさ、さっきから10分も経ってないんだぞ?それに、シレスト先生じゃなく、おまえが退治したってのも何だかうさん臭いし。」
「でも退治しちゃったんだから仕方ないじゃない…」
退治したというより、正確には相手がなぜか自滅したんだけどね。
「痛ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
容赦なくアンモニア水を傷口にぶっかけられて、良昭クンは暴れまわる。
「でもさ、あたいを突き飛ばしてくれた場面、ちょっと感心しちゃったな…」
「そ、そうか?……なんか照れるなぁ……」
「だけど、いくら照れたところで、あたいに対する暴力的行為だから、減点10ね。」
「おい、なんで減点なんだよっ!!」
「うーんと、昨日で残り7だったから、そこから10引いて……あ、もう点数なくなっちゃったね。」
7−10=−3。というわけで、良昭クンは今この時をもってまた処分の対象に……するとこだけど。
「えっと、罰は何がいい?」
「おい……本気かよ……」
「今日は氷あるからチューニョも大丈夫だし、火あぶりもオッケー。ダーツの刑もだいじょうぶ。電撃ビリビリも、大回転車輪も、ぜーんぶいけるけど?」
突然ソーハクな顔になる良昭クン。
「ぜ、全部イヤに決まってるだろが……」
「……なら、何もやんない。」
「へ?」
「やっぱり……ちょっと見直したからね。」
あたいらしくないことに、ちょっとだけ顔を赤くして、そう言った。
「本当に、何もしないのか?」
「うん。」
何だかぽかんとしながら聞いてくる良昭クンに、あたいはきっぱりと返事した。
どうしても、あの時の良昭クンに、罰なんかしようって気分になれないから…
「ところでさ…」
「何だ?」
「その代わり、一生あたいの下僕として仕えてもらうから。」
「おもいっきし罰やないけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
その内容の中に、「一生ついて来て」っていう含みがあったことに、良昭クンはやっぱり気づかなかった。
……もしかして、恋してる?
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