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学園物語4 TERM 1
 

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第1章
 やっほーっ!あたいが真里でーすっ!そしてこっちが従者の良昭クンでーすっ!
 ……面倒かけてるのはいっつもあたいの方だけど。ははは。
 ところで……そう、最近のこと。
 あたいの順調な進級と突然の校長入れ替え、これにはなんか陰謀が!?なんて思って手当たり次第に先生という先生に聞いたけれど、みんな『知らない』としか言わない。隠してるんじゃなく、本当に知らないらしい。
 なら、その新しい校長先生に直接聞くしかない。そのついでに、前の校長先生の時と同じようにナカヨシしておかないと。ぶっ壊した校舎の修理代とか請求されたりするからね。
 「でもさ、どんな人だろね。」
 「美人に悪人はいないのだっ!」
 「…じゅうぶんいるって。」
 「まあ若いことに越したことはないだろ…?」
 ふと、かなり年を食ったおじいちゃん校長とか、ぎとぎとするほど化粧の濃いオバタリアン校長とかを想像してみる。
 うげげげげ。本当に若いに越したことはないわ、こりゃ。
 「…まあね。」
 「ならいいじゃないか。」
 「けどね…そうなると、どうも良昭クンの行動がね…」
 と言いかけたころに、もう校長室前に着いてしまった。
 何となく良昭クンの行動が不安だけれど、時間がもったいないから、さっさと部屋のドアを空けて中を見回す。
がちゃり、ばたん。
 秘書かなんかに見える、若い女の人が1人、書類ロッカーの整理をしてる。
 「あのさー……」
 「はい?」
 整理する手を休めて、くるっとこっちを向いてくれる。なかなか上品な顔立ちをした人。こういう人を秘書に雇うくらいだから、校長先生本人も割りと上品なんだろな。
 ともかく久しぶりに、ちょっとだけ改まってみる。
 「校長先生、今どこにいるんですか……?」
 「何のご用でしょう。急ぎの用事ですか?」
 「…え、いや、別に急ぎってわけじゃないんだけどね。ただあたい、今度新しく入った校長先生にあいさつしとこっかなー、と思って。」
 そこまで言ったところで、良昭クンがあたいの袖をくいくいと引っ張ってくる。
 「…何よ。」
 「やっぱりさ、出かけてるんだからもういいじゃないか。女性のプライバシーを侵害するのは万死に値することだ。」
 「あたいのプライバシーなんか、ぐちゃぐちゃのぱーにしてるくせに!」
 「でもなあ……」
 「……まあ、いいんじゃない?どうせすぐ戻ってくるんでしょ。……ねぇ?」
 あたいがそうやってその女の人に振ると、何かいたずらっぽそうに笑って、
 「もちろん、今すぐにでも戻ってこられますよ。」
 「ほらね。ちょっとだけなら待とうよ。」
 と、良昭クンに言いかけると、その人はさらに言葉を続けた。
 「……何しろ、もうここにいるんですから。」
 ふーん。ホントはやっぱしいたんだ。はいはい。それだったらさっさと呼んだらいいじゃない。だいたい学生は忙しいのよ、まったく。それでも秘書!?
 ……あれ?
 よく考えれば、校長室って、ここ一部屋だったよね、たぶん……
 「ここにいる、って…………もしかして……」
 あたいとしたことが、かなりうかつだった。
 今度の校長は推定二十才の美人女性、という言葉が、もう一度くっきりと浮かんだ。
 「……第37代校長の、シレスト=ノイデルファームです。はじめまして。」
 もちろん、あたいたちはそのまま凍りついた。
……………
 「秘書さんと間違えられるとは……確かに無理ありませんけどね。」
 片手で書類の束をそろえながら、シレスト先生が言う。
 どうやらかなりの時間、あたいたちは『凍って』いたらしく、次に気が付いたときには、足がズキズキ痛んでた。
 全くもう、なんかややこしいことになるからいけないのよっ。
 「ご、ごめんなさいっ。」
 「いえいえいいんです。それで普通ですから。」
 でもさ、何か、調子狂うのよね…『学園物語』の天然ボケのテンポとはかなりかけはなれているような人だし。
 やさしそうに見えるから、ま、いっか。
 「そういえば、名前を聞いてませんでしたね。」
 「3年C組の、加藤真里と、その付き人の村尾良昭ですっ。」
 普通ならここで『付き人ちゃうわいっ!』とツッコミが入るはずだけど、良昭クンは黙ったまま。
 「……ねえ、ねえ、……良昭クン!?」
 「……………。」
 あれ、まだ凍りついているのかな?
 「凍っちゃって……ますね。」
 先生の言うとおり、良昭クンの目は虚ろになっている。
 「良昭クンって変なところで繊細だから。…氷、ない?」
 「……ありますよ?」
 全くもう、世話が焼けるんだから……とつぶやいていると、先生はボウル一杯分も氷を持って来た。どうやら何に使うか理解してるらしい。
 「『暴雪陣』や『氷塊撃』を弱めにかけた方が手軽じゃないですか?」
 「…あたい、氷系統の魔法は得意じゃないから。」
 もちろん治癒系統の魔術も使えない。なら何が得意かって言うと、火や衝撃波を発生する演出も派手な破壊三昧の術。どちらにしろかなりの割合で暴走して、消防と警察と自衛隊と国土地理院の仕事を増やすことになるんだけどね。
 「さってと、今日はどこにしよーかなぁー……」
 ふと見ると、制服のネクタイがゆるんでいて、襟のところに隙間が空いている。ならやることは一つ。基本に忠実に、背中に入れちゃうだけ。
 「…よっこらしょっと。」
ざざざざざざざざざ……
 「んぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
どたどたどたどたっ!!
 背中を押さえて走り回る良昭クン。押さえてたら、氷がよけいに当たるよ。
 「んぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃ」
 辺りかまわずひた走り、くるくる回るもんだから目も回り、方向感覚も失って、背中の感覚も失って、ついにふらふらと……
べちっ。
 ……板壁に見事に衝突して、倒れた。
 「ひぎょぎょぎょぎょぉ………」
 そのまま、ずりずりずりりと壁をひきずるようにして崩れ落ちる。
 「な、なんつーことすんだよっ!これならまだ張り手とか蹴っ飛ばしとかの方がましだろ!?」
 半分溶けた氷でぼたぼたのべたべたになった制服の背中をぱたぱたさせて、迷惑そうに良昭クンは言った。
 鼻面が赤くずりむけて、なんだか天狗さんみたい。
 「いつも蹴っ飛ばしただけじゃ起きないじゃない。このあたいのか弱い足じゃ、とうてい良昭クンのゴリラ足にはかなわないのよっ。」
 「嘘つけ!前なんか足の骨を粉砕したくせにっ!」
 「あれは、偶然不幸が重なっただけじゃない。」
 「おまえの機嫌が悪かったっつーことが『不幸』かっ!?」
 いや、ね。でも実際にその時は、テストの点が悪かったうえに説教食らってそのうえ10円玉ドブに落としたもんだから……つい。これって、十分不幸が重なってるよね。
 「どこぞの万能アンドロボットより強力なくせして、何が『か弱い』だ!!」
 「まあまあ……落ち着いて下さい。氷を持って来たのはわたしですから……」
 「まあ……今日はめでたい日だから許してやるけどなっ……」
 シレスト先生が割って入ると、良昭クンは急に態度を変えた。
 「何がめでたいのよ何がっ!」
 「…シレスト先生の顔に免じて……許してやるよっ……」
 なんかえらそばってる。こんなのいつもの良昭クンじゃない。良昭クンは、あたいの永遠のサンドバッグでないといけないのだっ。
 「………そんなにチューニョにされたい?」
びくっ!
 瞬間、良昭クンの体が震えた。
 「ぜっ、全部ご破算にしようって言ってるんじゃないかっ!どこが悪いんだよっ!」
 「その不純な動機。」
 そしてこの瞬間、良昭クンのチューニョ化が決定した。
……………
 で、次の日。
 講堂での集会も終わって、2時間目『魔術理論』の授業……のさらに前の、休み時間の憩いのひととき。
 隣の良昭クンは、なぜか制服のところどころにコゲ跡が残っていたりする。
 「……あああ……焼き人間にされて食われるかと思った……」
 種を明かすと、昨日のチューニョの罰(笑)をしようと思ったら、あいにく手持ちの氷が少なかったので、寛大なあたいは火あぶりの刑で我慢してあげた、というわけ。
 ただし、あたいの火系統の魔法は、通常の175200倍(当社比)の規模があったりするけれど。
 「……食わないわよ。マズいもん。」
 「食わずに済ましてくれてありがとごぜます。」
 皮肉たっぷりの口調で返してくる良昭クン。
 「……ねえ、講堂の集会でも、校長先生、所用があるとかでまだ姿をあらわさないし……真里ちゃん、知らない?」
 ナナメ後ろ、つまり良昭クンのすぐ後ろの女の子が、あたいに聞いてくる。
 ちなみにあたいと良昭クンは、なぜか最前列なので、前の人はもちろんいない。
 「え……うー……んと……知らない。」
 「……なんか隠してない?」
 「あ、隠してない隠してないって。はは。はははは。白い歯っていーいなぁーっ。」
 「白い歯……って……どう見ても、あからさまに隠してる様子なんだけど……」
 あたいには、みんなが自分が持ってるイメージと本物とのギャップでどれだけ『凍る』か、計測しなきゃなんない義務があるのよっ。
 なぜって?…あたいと良昭クンだけじゃ、あんまりにも悔しいから。
 …ともかく、だから、先生が自分から現れるまでおあずけ。
 「……なあ、なんて隠すんだよ。」
 横から良昭クンがつっつく。
 「出版コードに引っ掛かるから。」
 「うそつけっ。」
きーんこーんかーんこーん……
 せっかくの憩いの時間が……ああああ……休み時間よ去らないでっ…
 でも、それだけで平凡な毎日に戻るわけではなかった。
 「起立!礼!着席!」
 がたがたといつものように席をずらして礼をした後、おもむろに顔を上げると、そこにいたのは『魔術理論』の先生じゃなかった。
 「……先生。時間割変更、あったっけ?」
 「いや、所定どおり『魔術理論』だ。」
 学年主任のおっちゃんが、含み笑いを浮かべながら、あたいだけじゃなくみんなに聞こえるように答えた。
 「じゃ、なんで学年主任の先生がこんなところに来ちゃってるの?」
 「それはこれから話す……」
 と言うなり、黒板にでかでかと『新任教師』と書き出した。
 新任教師ってったって……ね。もうすこしで中学部卒業式のような気がかなりするんだけど……
 「では………3年C組は…言うまでもなく全員成績が天文学的に悪い。そこで…」
 言ってくれるわね、ずけずけと(苦笑)。
 でも事実、毎度毎度定期テストの成績をひきずり下ろしているのはC組だったりする。
 そりゃそうだよね。なんたって赤点王と赤点女王が同居してるんだもん。
 「そこで、最後の仕上げのために、特別な『魔術理論』講師を迎えることになった。……どうぞ。」
 そして、教室の後ろのドアからしずしずと入って来たのは……
 (……う、うそっ。)
 「セシーリアと申します。よろしく……」
 そのスジでは有名な大魔術使い、セシーリア=アーヴェル。22歳。と言ってもみんなわかんないだろうから解説しておくと、現代魔術の最先端を行く人で、主に黒魔術のエネルギー利用について研究してる。
 うーん……知名度は、『火の玉』大槻教授とか『考古学の鬼』吉村教授とか、そんなとこかな。
 テレビにもちょくちょく出てるんで、あたいたちにとっては『最も尊敬する先輩』第1位にあげられている人だったりもする。
 「…まさか、セシーリア=アーヴェルが来るとはな。」
 「よっぽどあたいたちの成績が悪いんでしょ。」
 ファッションか何だかは知らないけど、魔術使いっぽく顔を薄いヴェールで隠してるとこは、なんだか神秘的。
 ……追記。「古くさい」「パターンどおり」ともいう。
 でも、何となく何かが引っ掛かる。
 「……さっきの声といい、ヴェールの向こうにうっすらと見える顔立ちといい、なーんか引っ掛かるのよね……」
 「引っ掛かるって、何がだ?」
 かなりうさん臭そうな顔で、良昭クンがたずねる。
 「いや、この人がニセモノとか言ってるんじゃないんだけど、ただ……」
 「ただ、何だよ。」
 「何となく、あの『おねーたま』……に、似てない?」
 「シレスト先生にか。」
 「うん。」
 一度セシーリア先生の姿をちらりと見てから、良昭クンは少し考え込んだ。
 「…姉妹とか、双子じゃないのか?セシーリア先輩とシレスト先生とが。」
 「うーん……」
 こうなったら、当人に聞くしかない。
 何かの事情があるんだったらいけないので、あたいは身を乗り出して、ひそひそ声でその先生に聞いてみる。
 「先生……もしかして、まさかとは思うけど……」
 「何ですか?」
 ほら。この言葉遣いといい。ねえ。
 「もしかして、シレスト先生だったりする?」
 返事は返って来なかった。先生は無視して、クラスの点呼を取り始めたから。
 「……どうだ?」
 「アウト。ますますあやしいけど、答えてくれ……あれ?」
 いつの間にか、あたいの机の上に、折り畳まれた紙切れが置いてある。
 『速達 真里&良昭さん限定』
 と、走り書きがしてある。しかもご丁寧に『限定』は赤文字。
 いったい、いつの間に書いたんだろうっていう超特大問題も頭によぎったけれど、とにかく、もう一度ちらりと教壇の方を見上げてみる。
 目が合った瞬間、あのいたずらっぽい笑みが、ヴェールの向こうに見えた。
 「……どうなんだ?」
 しつこく聞いて来る良昭クンを無視して、夢中であたいはその紙切れをあけた。
 「やっぱり……」
 『他の人には内緒ですからね。』
 紙切れの上のインクは、そういう文字を示してあった。

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