+-----学園物語4 TERM 1-----+
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フィナーレ
「さっきのは、何だったんだ……?」
231名に踏み荒らされ、机が散らかってしまっている中で、真里の父親は呆然と立ち尽くしていた。
「し、失礼いたしました……」
教頭は必死になって、床に頭をすりつけている。
「さっき、私の子も居たわよ、どういう事??」
「生徒も大部分が反対だとか言っていたはずではなかったのか?」
そこらじゅうで、そんな会話が交わされ、また会議室は騒々しくなった。
「ウチの子が、なぜああまでしたんだ…?女のくせに、小さい頃から腕白ぼうずだとか言われたウチの真里が、なぜああまでした……?」
真里の父親は、何度もそんなふうな独り言をくり返した。
……………
あたいは、空を自由に舞っている……
生まれて初めて、なんていえば大ゲサだけど、階段ですっころげた以外には、派手に宙を舞ったのはこれが初めてだった。
飛行機とかじゃなく、スカイダイビングとかとも違う、宙に浮く感覚。
何だか今までのことを全部フッ飛ばしそうな、頬に当たる冷たい風。
寒い頃にしては珍しい、澄み切った青空。
あたいでさえも何だか詩の一つか二つくらいい作りたくなる…そんな、空。
思いきり息を吸った。
冷たい。けど、気持ちいい。
何にもこわくない。たとえ、先生が居なくなっても。
ただ、ちょっと、さみしいけどね。
涙は、もう、かわいてる。
……突然、あたいはおもいっきり絶叫してみたくなった。息を吸ったまままだ吐いてないんだからあたりまえだけど。
それじゃ、ここはひとつ、でっかいのを!
「みーーーんな、ばっかやろーっっ!!」
「そーだーっ!みんなバカだったんだーっ!」
下では良昭クンが手を振りながらそう言っている。
「そうよーっ……て、何言ってるのよ良昭クン!」
なぜか、さっきまでしょんぼりと坂を下っていたみんなが、急いで引き返してきている。
「本当にバカだったんだ!」
「……は?」
ヤケクソになってるにしては、あんまりにも意味が取れなさすぎる。
「ちょっと、降りて。良昭クンが……」
「ええ、さっきから……いったい何があったんでしょうか……?」
先生も聞いていたらしく、不思議そうに首をかしげながらも、ゆっくりとらせんを描いて高度を下げる。
地面が近くなってきた。
「……ねえ、さっきからわけわかんないこと言ってたけど…まさかあれって、あたいがバカだって言ってるんじゃないよねっ!?」
すたっ。
あたいは、手を放して、自分から飛び下りた。
「ちがうちがう。……バカなのは、総会に出てた親だ。」
「だからあたいが言ってることと……」
「そうじゃない。」
「いや、そうじゃないって、その通りだってば。」
「……だからそうじゃないって言ってるだろうが。」
「……何よ。」
「……採決がひっくりかえった。」
「そーでしょうね。あたいたちの意見から言えばひっくり返った……は?」
ひっくり返ってない。そのまんま、あっけないほどに例のことは決まったはず…
……あれ?
「ね、もしかして、ひっくり返った?採決が?」
「そうだ。ほれ。」
と言って、良昭クンが手渡したのは……辞表の封筒。
「……さっき、お前が見てないあいだに、教頭先生と親の代表が返しにきた。」
「……なんで?……怪物だとか言って、あれほど毛嫌いしてたのに……ね?」
ちらりと先生のほうをふりかえると、ちょうど地面に降り立って、背中の羽根が、ふっ、と消えたところだった。
「いいんじゃ、ないですか?結果、こうなったんですし。」
「ま、それなら……破っちゃえ、その辞表。」
「オレがか?」
「何ならあたいが、良昭クンごと、灰も残らないくらいに吹っ飛ばしちゃおうか?」
「お、オレがやらせていただきますっ………」
あたいの美貌に負けたらしく(?)、良昭クンは、辞表を片手に持ち、変な構えを取った。
「ちょりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
びりっ!
ばりびりびりっっ!!
をを、お見事!
丈夫な封筒に入った辞表は、その封筒ごと、何が何だかわからなくなるくらいに、びりびりの粉々になっちゃった。
「あー、すっきりした。ね?良昭クン?」
「き、きつかった……あの封筒……」
ぜえぜえ呼吸しながら、良昭クンは言った。
「……ところで……気持ち良かったか?空は?」
「うん!ものすごーく!いーっぱい澄んだ空気があるでしょ、それから……あ、そうだ!……先生、おめでたついでにもうひとつ頼みがあるんだけど……」
「も、もうひとつですか……??」
かなりヒドい頼みごとを予想したみたいで、ちょっと先生は後ずさった。
「あのね、良昭クンもいっしょに、もう一回だけ、空飛んでくれない??」
「え………こう見えても、疲れるんですよ……」
そうぶつぶつ言いながらも、心ではやっぱりうれしいらしく、もうさっさと羽根を展開しなおしてたりする。
こうして見てみると、羽根を広げた先生は、何だか神秘的できれいに見える。
ね、そうだと思わない?
「もう一度言いますが、ちゃんと、つかまっていてくださいね。」
「わかってるって。」
「お……おっかねえよお。オレ、高所恐怖症なんだよお………」
「だぁいじょうぶだって!どうせ墜落するときは墜落するんだから!」
「こ、こら、気休めにもなってないじゃないかっ、」
何だかんだ言って、あたいは、がたがたと震える良昭クンを、先生のそばまでどさくさまぎれに連れてきた。
「先生、おねがい。」
「それじゃあ……今度は派手に行きますよっ!」
ぶあさあっっっっっっっ!!
あたいたちは、さっきよりも勢いよく、冬の青空へと舞い上がった。
……………
しーんと静まり返る講堂。
厳粛な雰囲気。
あれから3カ月……
3月の初旬、あたいたちは、中学部の卒業式に出席していた。
「卒業証書、授与!」
教頭先生の声がよく響く。それに合わせて、壇上のA組の先生が立ち上がり、舞台のそでに近いほうに置いてあるマイクの前に立った。
そのすぐそばでは、A組のみんなが、並んで待機している。
「3年A組……伊藤純!……」
「はい!」
最初の子の名前が呼ばれて、その伊藤って子は、ゆっくりと舞台中央のでっかい机(本当はもっと正式な名前があるんだろうけど、あたいはちゃんと知らない)のところに向かう。
もちろん……
そこには、盛装したシレスト先生がいる。
ま、当たり前だけどね。
「卒業証書。第3学年A組、伊藤純。右記の者、本学園の中学部教育課程を全て修了し、魔術利用者の初級資格を所持することをここに証する。平成10年3月1日、汎世界魔法学園校長、シレスト=ノイデルファーム。」
神妙な顔でそう読み上げると、証書につきもののあの分厚くてぺかぺかの紙を両手に持って差し出す。
「おめでとう。」
形式的にやるものとはいえ、やっぱり卒業っていうものはうれしい。
でも、あたいはどうも浮かない表情をしている。
なぜって?
……実は、あたいと良昭クンは、あんまりにも留年しすぎたんで、前の校長先生の時に、どうも中学部だけで追い出されることになっちゃってるのよね。
だったらどっちにしろ先生とはお別れなんだから、何も必死になってあの時止めなくてもよかったんじゃないか、ってことになるけど……
けじめよケジメ。あたいたちが卒業するのは、先生が路頭に迷ってる時だった、なんてことになったら、やっぱし後味悪いし。
「…大野原英輔!……大宮政宏!……」
どんどん名前が呼ばれて、その度にみんな返事をし、壇上の真ん中に歩いていって、証書を受け取って反対側の階段から壇の下に降りる。
何だかどっかの工場の流れ作業ラインみたいで、見てるこっちはとことんヒマ。
目立ちたがりの子がでっかい声で返事をして、そのたびに場内がちょっとざわめく。
あたいだってあんなのに負けないくらいの返事して、ついでに壇上でちょっとパフォーマンスでもやってあげようかと思ってるんだけど、ちょっとなんか古臭いし、ありきたりのような気もする。
「…楠本英和!……西光優二!……」
あー……なんだか眠くなってきた。
おやすみしちゃおっか。卒業式だけど。
……あ、言い忘れてたこと1つ。
何であの『某恋愛SLGの甘い罠』事件の説明をしてないかというと…
わかんないから。
あの後、おばけのフェリアンとかダンディ男とか、ありがちでしかも性格悪いヒロインとかがぜんぜん顔を見せないもんだから、あたいだってほったらかしてある。
たぶん……このへんは予想だけど、美樹が霊界抜け出して、部下のゼリーおばけを連れて、何かの計画のために現実界で悪さをはたらこうとしたもんだから、霊界を管理する組織のトップが怒って、その下っぱのシャルム先生とダンディ男に、美樹をつかまえるよう言いつけた。
で、その美樹が現実界との通路に選んだのが、あの恋愛SLG。そんなこんなで偶然と良昭クンの不運が重なって……
……ってとこじゃないかと思うのよね。
ま、このことは、会話の端々とかいくつか拾っていけばわかったりするかもしれないけど、ここから先はどうなるのかはわからない。
とにかく、シレスト先生は、このあたいの偉大なる英断のおかげでめでたく救われたし。
できればこのまんま、平和にいきたいとこだけど……
「……3年C組!」
あたいたちのクラスの番が始まった。
みんな一斉にどたどたと立って、左サイドの壇上への階段のところに集まる。
あー、なんだかどきどきする。
相手はシレスト先生だから本当は気楽にいけるはずなんだけど……
このぶんじゃ、パフォーマンスどころか返事もできないかもしんない……
と、列の前のほうが、少々ざわついている。
「……どしたの?」
前の子に聞いてみる。
「良昭クンが、列から外されたらしいわ。」
え………?
も、もしかしてっ、この期に及んでまた留年!?
とすると……たぶん……
「加藤。おまえはこっちだ。」
高等部から卒業式のお手伝いに来ている先生が、あたいを手招きしてる。
「……はい?」
「すぐに列からはずれて、村尾といっしょにそこで待て。」
そう言って、良昭クンが寂しそうに突っ立ってる壁のほうを指さした。
「どういうことよ、あたいたちまた留年!?今回はちゃんと卒業させてくれるって、前から言われてたのにっ!!」
あんまりにもでっかい声で言ったもんだから、講堂のみんながこっちを向いた。
親たちなんか、こんなこと言ってる。
「……誰?あの礼儀知らずな子。」
「PTAの会議で、ごたごた起こした加藤って子ですって。」
「そうそう。校舎とか山とかをよく吹き飛ばす危ない子らしいわよ。」
「恥ずかしいわねぇ、うちの子供、C組なんだけど、悪いのがうつっちゃってないかしら。」
いいかげんムカムカすることばっかし。
PTAの時といい、なんでこんななのよ、大人って!!
「あたいだって証書もらう権利はあるわよっ!」
「……いや、留年じゃないが、証書はない。」
「……は??」
この先生に聞いてもムダみたい。
あたいは、壇上の方に目を向けた。
例のいたずらっぽい笑みを浮かべるシレスト先生の姿。
……やっぱし、ふーん……
「良昭クン、どうする?」
「どうするって……」
「また先生のさしがねよ。こうなったら今すぐかけあってやるっ!」
「こらこらっ、一応卒業式の最中だぞ!?」
「もうさっきあたいが声上げた時点で丸つぶれだからいいのっ!」
「こら、その理屈はないだろって……おいっ!!」
ずりずりずりっ!!
引きとめようとする良昭クンを無理やりひきずって、壇上へとずり上がる。
べこべこべこべこんっ!
「痛いっ!痛いってよっ!こらっ!」
階段でも無理やり引きずったもんだから、良昭クンは段の角でそこらじゅうを打ちつけてる。
「せーんせぇぇぇぇぇぇっ!?」
「な、何でしょう?」
「どーゆーことよっ、これってぇぇっ!?」
びしゃあああっ!ずをぁぁぁぁぁっ!!
あたいの暴走に呼応して、水の精さんも興奮してるらしく、巨大水鉄砲をそこらじゅうにまき散らす。
壇上はびちゃびちゃ。席の方もびちゃびちゃ。
「い、いえ……その前にっ!その水の精、どうにかしてくださいっ!」
「だったら先に答えてよっ!」
もう卒業式は再起不能。これじゃあみんなやってられない。
そこがあたいの狙いどころなんだけども。
「証書ナシなんて、どんな理屈こねられてもあたいは納得しないんだかんねっ!」
「ええ、つまりそれは……」
「早く言いなさいよっ!!」
バックで火が燃える。火事じゃなくて魔術の炎が。
あたいだって演出には凝るほうなんだから。
火と水のフェスティバル、名付けて混沌のグラデュエーション!!
「ねぇぇぇぇぇっ!!?」
「ですから、証書ナシっていうのは……もし今証書をあげて、中学で追い出してしまうと、将来どうなるかものすごく心配だからです。」
「……それって、どういうこと?」
「つまり……この証書は、真里さんと良昭さんだけ、高校卒業までおあずけ、ということです。」
そう言われて、あたいはちょっとだけ考えた。
ということは、裏を返せば、高校に進めるってことよね。
つまり……
「あれ、追い出されるんじゃなかったっけ?」
「昨日の職員会議で、決定したことですから、前のそういう約束は自動的に消える、ということになりますね。」
あたいと良昭クンは、しばらくその場でぽかんとしていた。
「さ、式の邪魔になりますから。とにかくまずは、他の人にみんな証書を渡してしまわないといけませんからね。」
そう言われて、あたいは、良昭クンを連れて、すごすごと壇の下へと引き下がった。
「それから……真里さん、良昭さん、高校進学、おめでとうございます。」
「あ、はははは、ははは……」
意外な結果に、凍りついたまま、全く動けない。
「それでは先生、続き、おねがいします。」
で、そのそばで、先生はあたいたちのC組の担任に静かに言った。
「あ、はい。え……どこまで呼んだっけなぁ……」
怒るべきなのか、喜ぶべきなのか、あたいにもわかんない。
……ただ、あたいの本当の気持ちからいえば、やっぱりバンザイして喜ぶべきなんだろうと思う。
たぶん……
……………
真里はどうも一人称続行不可能なようなので、筆者に交代する。
……というわけで、最後の生徒が証書をもらって、席に帰ってきた。
しかし、全く次のプログラムに進もうとしない。
「……教頭先生?……教頭先生?終わりましたよ?」
さっきのショックが覚めていないらしく、ついでに『恐怖の水鉄砲』のとばっちりも食らったらしく、びしょぬれになりながら突っ立つ教頭。
見かねてシレストが声をかけるが、どうもダメなようだ。
全く、あれくらいでこうなるとは、だらしがないぞ。
「教頭先生!?……終わりましたよ!?」
「は、は、はいっ!?」
どうやらやっと、目覚めたようだ。
「……そ……それでは、次は、卒業生、卒業の辞。生徒、起立!」
で、そう言ったとたんのことである。
ぢりりりりりりりりりりりりりり……
「……火事……!?」
けたたましくベルが鳴り始め、ただおろおろとするばかりの生徒達。
「緊急警報だ!急げ!職員全員…」
教頭が見事に慌てる。
そのショックで、なぜか真里は開き直った。
「静かにしてよ!……全く、女は度胸、男は愛嬌って言うでしょ!?」
「逆だろうが……」
良昭のつぶやきを完全無視して、真里はまた壇上に駆け上がった。
「いったい、何なの、これ!もしかして、これも卒業式のうちとか!?」
「ち、違いますよ!こんなことはプログラムにも書いてません!」
「だったらなんでこんなときに火事!?」
「火事だと限ったわけじゃありません。何らかの災害や重大な故障とかが起こったときにもベルが鳴るように装置してあります。」
「どちらにしろ緊急事態じゃない!」
いつものように悠々と構えるシレストを、真里は叱りつけた。
立場が反対のような気もするが、それはそれでよかろう。
問題は、それよりデカそうなのだから。
「どうにかしないと、いけませんよね。」
「当たり前でしょうが!早く!みんなをすぐに外に避難させて!先生達をみんなあつめて、早く原因を突き止めないと!」
言い終わらないうちに、真里は壇上からかけ降り、司会用の演壇のところにまたもやぼけーっと立ちつくしている教頭のマイクをぶん取った。
「あ、あー、みなさん、何だか緊急事態のようなので、外に逃げちゃってくだされ!」
「バカ、それじゃパニックわざと起こすようなもんだろ!」
慌てて良昭が、真里の口をふさいだ。
「ふんが、んがんがんがんがんがんが!」
つかまえられたウナギのごとく、ばたばたと手・足・体を振り回す真里。
……つるつる滑ったりはしないけれど。
ともかくそれを必死で押さえ込みながら、良昭はマイクに口を近づけた。
「えー、直接の影響は今のところ講堂にはありませんので、落ち着いて行動してください…って、誰も聞いてねえな。」
きゃーきゃーわーわーという絶叫と怒声が辺りを満たし、地獄絵図なんて言葉はすでになまやさしいくらいに、ぐちゃんぐちゃんの大混乱である。
「ちくしょう、なんでいっつも平和に過ごせないんだよ!」
ごんっ、ぶちっ!!
ヤケクソになって、良昭はマイクを叩き付けた。
良昭よ、真里とシレストが側にいる限り、お前の明日に平和はないと思え。
ぢりりりりりりりりりりりりり…………
というわけで、不運な人間と暴走エルフに奇天烈ダイモンが加わり、やっぱり結局無理矢理どうしても期待を裏切って作者の陰謀によりオハナシはまだ続いてしまうのであった。
……ちゃんちゃん。
第1ターム:終幕
原作:『学園物語』Chameleon Ponapalt
『続・学園物語』広東風蟹玉
プロデューサー:極東第七師団
キャラクター・デザイン:Chameleon Ponapalt
ベースプランニング:Chameleon Ponapalt
製作:PONAPALT-Factory Publishing (A)
監督:Shillest Noydellfarm
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