+-----学園物語4 TERM 1-----+

 


学園物語4 TERM 1
 

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 「逃げ出したのですか?」
 女は、すぐ前にひざまづく背の高い男に向かって言った。
 「はい、確かに……」
 人間を超越した「神」の風格を漂わせる彼女は、男の言葉のせいで、少しだけ表情を曇らせた。
 「……どこへ逃亡したのか、判明していますか?」
 「……いえ、まだはっきりした情報はつかめていないのが現状です。現実界に降りたところまでは把握できているのですが、突然霊体の反応が消失しました。」
 「不思議ですね……ただ、霊というものはもともと実体を持ちませんから、自身を電気信号などに変換することもできます。もしかすると、そのあたりにもぐりこんだのでは…?」
 「当たってみましょう。」
 と言って、男が退出しようとし、ドアノブに手をかけようとすると……
バタン!ゴンッ!!
 突然開いたドアに、したたかに頭をうちつけた。
 「っぐっ……誰だ……」
 「イザナミ様!大変です!非結晶体生物の一部が…」
 「いつも走るな、あわてるなと言っているだろう。」
 ドアを勢い良く開けた奴に向かって、冷静な様子でたしなめる男。
 しかし、できたタンコブはやっぱり大きく、面食いの女にウケそうな甘いマスクが台無しである。
 「……いいじゃないですか。元気なことはいいことです。」
 「ほら、イザナミ様もそう言ってるじゃない!」
 「……いいかげんにしろ……」
 男は、頭に少し血がのぼったか、殺気をほとばしらせる。
 そいつは、イザナミ…要するに、さっき男が話していた相手の女性である…の後ろに回り、男のキツい視線をさけようとする。
 「それより、シャルムさん。さっきの非結晶体生物…と言っていた続きを話してくれませんか?」
 「あ、そーだった、えー……厳重に管理されているはずの非結晶体生物の一部がいなくなったんです。」
 その報告を聞き、イザナミはさらに表情を曇らせる。
 「……すみませんが、その件も含めて、調査してはいただけないでしょうか。」
 そして、ていねいに、男に対して頼んだ。
 「もちろん……シャルムの奴も連れていきますが……」
 「どうぞ。許可します。」
 「それでは……おいシャルム、置いてくぞ。」
 「待ってって!全く、いっつもこうなんだから……」

学園物語4
第1ターム:卒業に贈る歌

第0章/前置き
 留年を繰り返し、強烈に遅れまくっていた真里たちにも、とうとう『卒業』という一大ページェントがやってきた…「やってきてしまった。」
ぐー、ぐー、ぐー……
 あの崩壊寸前の2人がなぜ進級できたのか、それは、科学でも解明不可能な今世紀最大の謎であるが、少なくとも中学3年までは行けたのである。
んがー、ふがー、ぐがー。
 汎世界魔法学園では、中学3年になると、一応は卒業式をとりおこない、同じ高校への進学者の入学式は省略するというならわしがある。ただのならわしではない。中学で卒業して行く奴も存在するが故に、わざとこのような方法をとっているのだ。
すぴー。くぴー。すぴー。
 ……どうでもいいが、睡眠音から始まるオープニングは、これでもう3回目のような気がする。全くこいつはどれだけ寝れば気が済むのか。ご要望あらば『永遠の眠り』も与えてやるぞ。
 「…ねえ、ねえっ。」
 現在はホームルーム。男の担任教師のむさくるしい声が響いている。寝ているのが授業中ではないところが、唯一の進歩だろうか。
 「ねえってばっ。」
 というわけで、ヨダレを垂れながらぐーすか熟睡しているのが村尾良昭18歳。趣味は寝ること、特技も寝ること。好きなものは自分のベッドと三度の食事。嫌いなものは睡眠と食事をさまたげるもの全部。
 要するに、大脳古皮質に生きる人間なのだ。……欲望と言った方が手っ取り早いか。
 「ねぇーえぇぇーっ!」
 見るに見かねて声をかけている隣の女性は、加藤真里同じく18。本人の都合によりプロフィールは述べないが(述べるとまず殺される)、さる方面?では有名な妖精の一種、エルフ系の血を受け継いでいるらしく、どう見ても耳がとんがっている。
 ……しかしあの形って、宇宙人グレイ(想像図)の耳と同類だぞ?
 「ねぇえぇぇぇええぇぇぇぇぇっ!!」
 その自分の耳は棚に上げて、真里は、良昭の耳を引っ張ってつねり始めた。んがんがという声を出しながらオランウータンのごとく覚醒する良昭。
 言うまでもなく、良昭の機嫌は悪い。
 「……睡眠の邪魔すんなって、前からなんべんも言ってただろが。」
 「だって、あたい一人じゃヒマだもん。」
 「ならどっか隣の人とくっ喋ってろ。」
 「良昭クンが隣の人。」
 真里に屁理屈を言わせると大変である。収拾がつかなくなって機嫌を損ねると『火球』あたりで教室を飛ばしかねないので、良昭は諦めて真里の方を向いた。
 「……で、何なんだよ。」
 かなりおっくうそうな表情である。おおかた昨日も家で恋愛シュミレーションあたりをプレイしていたのだろう…しかもその『1年目』を。
 「校長先生が入れ替わったって、知ってる?」
 「何度も聞いたぞ、ウワサで。何でも、かなり若い人がついたらしいけどな。まだ、当人の顔は見てないけれど。」
 異例の人事異動の話は、もう公然の噂である。
 普通、校長といえば、どっかで苦労したと自称するじいさんorばあさんがなるものだが…
 「…でさ、その校長先生、外見二十前後の美人なオネーサマなんだって。」
 「『美人のおねえさま』だとっ!?」
 欲で生きる男、良昭は、美人という一単語に反応して、がばりと飛び起きた。
 「……なんでこんなときだけ強烈に反応するのよっ。」
 「どういうことなんだっ!詳しく聞かせろっ!校長が美人おねーさんとはっ!」
 真里たちは、前任の校長とはなぜかくされ縁があった。その勢いで、今度の校長とも縁を結んでしまおうというのが真里の考え。縁以上のナニを結んでしまおうというのが良昭の考えである。
 「百聞は一見にしかず、って言うでしょ?放課後に、校長室へ乗り込んでみましょうよ。…あ、ただしやましい行動したらチューニョだかんね。」
 チューニョとは、アンデスで作られるという冷凍乾燥じゃがいものこと。要するに、そのじゃがいもみたいに魔法で冷凍乾燥しちゃうぞと脅しをかけているのである。
 ただし注意……真里の冷却系呪文ほど不確実なものはない。不発ならまだよいが、暴走すると地球が一気に氷河期に突入する可能性がある。
 「頼む、チューニョはかんべんしてくれっ。」
 「だめだめ。良昭クンはこうでもしないといっつも調子に乗るんだから。」
 とは言いながらも、やっぱり調子に乗るんだろうな、と思って、チューニョの作り方を頭の中で確認している真里であった。

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