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続学園物語
 

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・第七章 此処は日の國、鬼の國

 「だめかっ!」
 岸窪が叫ぶ。
 「いえ、効果は有ります。ただ、再生力が高く、致命傷を与えなければ駄目です。」
 小柄なエルフの一人が言う。しかし、岸窪が幾ら『虎徹』で傷つけてもその端から傷が治っていく、これでは埒が開かない。
 「岸窪っ! 連刃の型!!」
 「解りましたっ!」
 二人が同時に鬼の正面に飛ぶ。
 鬼はその二人をはじき飛ばそうと手を振り下ろす。
 刹那、二人は鬼の手を踏み台にして右の目に飛ぶ。
 「今だっ!」
 「はっ!」
 二人は『鬼を切る刀』で目を縦横に切り裂き、その目のなかに相沢がだめ押しの魔法をたたき込む。
 『雷神』
 激しい電光が、相沢の掌と鬼の右目を結ぶ。
 「おぉぉぉぉぉぉんっ!!!」
 鬼は咆哮を上げ、暴れ回った挙げ句、大地を揺るがしながら倒れた。
 「……殺った。」
 流石、相沢と岸窪。化け物みたいな奴らだ。
 「……目標は、完全に沈……!?」
 「どうした!?」
 「目標、再起動っ! 立ち上がります。…が、右目の再生は有りません。」
「ばかなっ!……いや、それでも効いているんだ、効いては……いるんだ。」
 その場にいる全員の額から汗が流れ落ちた。


 「ねぇ、良昭クン。」
 木の上から真里が呼びかけてきた。
 「……ん?」
 「星が綺麗だよ。」
 真里はそう呟いた。
 「…そう…だな、……でも、怖くなったりしないか?」
 俺は草の上に寝転がりながら天を見つめた。無限の空に煌めく数多の星霜。この瞬間の瞬きは、いつこの大地に届くのか。 
 「どうして?」
 「吸い込まれそうで。」
 「……馬〜鹿っ。そんなこと有るわけないじゃない。……あ、でも、星の矢に射抜かれそうな感じなら何度か感じたことがあるよ。」
 「似たようなもんじゃねーか。」
 「ふふ、そうかもね。」
 笑いながら答える。
 「ねぇ……良昭クン」
 「…ん?」
 「……鬼、退治したら、帰れるの?」
 急に真里が不安そうな表情を浮かべて聞いてきた。
 「…無理だな。鬼が原因ならともかく。全く無関係だからな。……何にせよ鬼を退治しておくのは悪くない。」
 「なんで?」
 「……帰れなかったときのため……かな? 安心して暮らせるだろ?」
 「………………。」
 そう言うと、真里は黙りこくったまま、俺の方をじっと見つめた。
 「あたい…帰りたいよ。此処じゃ暮らせない。」
 「真里、…お前……。」
 「……ううん……違うわ。」

 ひゅんっ!
 鬼は目から赤い光線を放ち、あっと言う間に辺りを焼き尽くした、勿論そこにいたエルフの部隊諸共に。
 溶けた大地が爆発し、辺りに灼熱の雫をまき散らす。
 「「「これでも、食らえっ!!」」」

 どぱぱぱぱぱぱぱっ!!

 エルフの術師達がありったけの魔法をぶち込む……が、皮膚に軽い火傷を負わせることぐらいで、鬼の歩みを鈍らせることすら出来ない。
 「力の無駄遣いだな…岸窪殿。後はこちらで片をつける。ヤスギとか言う小娘に退却命令を出させてくれ。」
 視線を向けずに言い放つ。
 「そんな、無茶です!?」
 「早くしろっ! エルフに巻き添えを食らわせることになるぞ。第一あいつらの援護は役に立たん。……邪魔だ。」
 「どうやってあれを?」
 岸窪がたずねる。
 「俺が始末する。飛び火するからお前も下がってたほうがいい……良昭っ!」
 唐突に相沢が良昭を指名した。……が、返事が無い。
 「………真里、良昭はどこ行った?」
 「良昭ク…様? ……良昭様なら、あそこで気絶してますけど………。」
 「………あの馬鹿。」
 良昭は杉の木の枝に引っ掛かったまま気絶していた。恐らく鬼の出した衝撃波を食らったときに飛ばされたのだろう……が、………いや、何でもない。
 「誰が、あいつを引っ張ってきてくれ。あいつはあれでも最終兵器なんだからな。」


 「………ま、まじでやるんすか?師匠ぉぉっ!?」
 「当たり前だ。」
 良昭クンに『虎徹』と『加卜』の二刀流をさせて、由克が『人形使い』で操る。……と言う作戦なんですって。エルフの皆さんも良昭クンにいろんな魔法をかけてるんだけど、……ま、只じゃ済まないわね。
 「真里、俺が死んだら、墓は海の見えるひなげしの咲き乱れる丘に作ってくれ。」
 「……やだ。んな面倒くさいの。要は死ななきゃいいんでしょ?じゃ、こんなのはどう?」
 と、言うわけで良昭クンに、
 『勇気』
 の魔法をかけてあげた。……パーフェクトっ!
 「あっ、アホ真里っ!?なんちゅーことをっ!?」
 良昭クンの体を紅い光のフィールドが覆うにつれ、良昭クンの表情が段々と勇ましくなっていく。
 「うっしゃあぁぁあっ!!!!」
 掛け声一発、いきなり鬼のほうに向かって突っ走っていく良昭クン
 「村尾っ!?まだ『人形使い』が終わってないぞっ!」
 「んなもん要らねぇってんだよォッ!!」
 一直線に突っ込んでいく良昭クン。………何にも考えてないな。
 「食らえェェッッ!!」
 『超激烈破邪滅殺良昭スペシャルゥゥゥッ!!』
 良昭クンの交差させている二本の刀の先から貯水タンク大の光球が発生し、スパークしはじめた。
 「「「ををををををっ!!??」」」
 一斉に感嘆の声が上がる。……凄い、良昭クンにこんな隠し玉が有ったなんて。
 「これは……たいしたもんだ。いけるか?」
 何と、由克までもが感心している。
 「どりゃぁぁぁぁああぁああぁあああっっ!!」
 ……………………………………………………………………………………ぱすっ。
 「……あぁぁぁぁぁぁぁ………。」
 「……………やっちゃったぁぁぁ……。」
 「………不発………か。」
 「……えっと、……ま、ぼかぁただの『こーこーせー』だしぃ。」
 違う、違うわ良昭クン。あたいたちは初等部なのよッ。
 「言わんこっちゃない。早く戻ってこい。『人形使い』をかける。」
 無謀は勇気と似て非なる物ってなんかで聞いたことがあるけど、この事なんだ。うん、一つ賢くなった。
 「………って、良昭クンっ!? 後ろっ!!」
 「えっ?」
 いきなり鬼と良昭クン目掛けて、空から幾つもの火の玉が降ってきた。……あれ?違うな、これはもしかして……。
 「めっめめめっっ『メテオ・ストライク』ゥゥッ!?」
 あ、そーだ。そうそう習った習った。天文魔法の授業か何かで。なんだ、良昭クン覚えてるじゃない。……確か、出るって言ったのにテストに出なかったんだよね。
 「真里っ! ぼーっとするなっ!逃げろっ!」
 由克はそう言って、あたいの手を取って走りだした。
 「ち、ちょっとっ! 痛いってばっ! ……それより何なのよアレっ!?!?」
 「エルフの馬鹿なのがかましやがった。効くとは思えんが………時間がない。とっとと避難しろ。」
 「じゃ、じゃあ良昭クンは!? どうなるのよっ!!」
 こっちに走ってきているが、まだ射程内にいる。
 「間に合わん。諦めろ。」
 「そんな、まだ間に合うわよっ!」
 あたいは由克の手を振りほどいて良昭クンの方に駆けだした。
 「急いで、良昭クン。」
 「何でこっち来んだよっ! 死にてーのかっ!?」
 必死の形相で走ってくる良昭クン。風呂敷と刀を二本も持っているからか、かなり遅い。……これは本当に間に合わないかも。
 「そんなの捨てちゃいなさいよっ! 特にその風呂敷包みなんて要らないでしょっ!?」
 「あっ! わ、忘れてた。いいもの有ったんだ。」
 走りながら、もたもたと風呂敷のなかから一丁のライフルを取り出した。
 「何よ、それ。」
 「反陽子速射砲………って取説に書いてた。」
 あんちぷろとんくいっくふぁいありんぐぅぅっ!?なんでんなもんがここに有るってぇのよっ!?
 「あ、危ないから仕舞いなさいよっ!」
 「うんにゃ、撃つ。……ぽちっトナ。」

 ぱしゅわっっ!!

 発射音と共に隕石も鬼の上半身も消し飛ぶのが見えた。ただ、………後ろの山も吹っ飛んだような気がする。
 「ああ、あそこにはアーデルハイドの爺さんの家が有ったのにっ!?」
 日本アルプスか!!……ま、退治したからいっか。……あれ?
鬼の下半身がゆらりと起き上がって、こっちの方に歩いて来る。………なんかバタ○リアンみたいで嫌ぁっ!?
 「よ、良昭クンっ!? アレも消してよぉぉっ!?」
 「……ふ、エネルギー切れだ。再チャージにお湯を入れて三分待て、と有る。」
 「どこにお湯なんてあんのよっ!」
 「そんなら、これでどうだぁっっっ!!!」
 そう言って、筒状の物を取り出した。
 「なにそれ?」
 「次元振動弾。……って書いてある。んじゃ、ぽ…」
 「ちょぅっと待ったぁぁぁっ!!」
 撃とうとする良昭クンを慌てて止める。
 「な、何だよ。」
「………巧くいったらそれで、帰れるんじゃ無い?」
 「……………………ををっ!?」
 「ををっ、じゃない。そんなの有るならなんで言わないのよ。」
 「だから、忘れてたんだって。」
 「………ったく。」
 ………究極の選択、ここに残るか、行き先不明の片道切符を使うか。
 「どうする? 俺はこんなとこには未練は無いからいいけどおまえは………。」
 「あたいは、良昭クンに着いてくよ。一人よりは二人のほうが都合いいから。」
 ストレス発散に役立つし。
 「相沢は? どうするんだ?」
 由克? ………どうしよっか。
 「……帰りたかったら、着いてくるわよ。きっと。」
 由克が居なくなったら、『日本史』は当分自習だしね。
 「んじゃ、派手にいこうか。ホールが出たら飛び込めよ。……あ、それから多分、社会準備室前に出ると思う。」
 「なんで?」
 「………何となく。」
 ゆっくりと、良昭クンの指が引き金に掛かる。
 「あばよっ!江戸時代っ!!」

 どっごぉぉぉぉんっっ!!

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