+-----続学園物語-----+
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・第六章 森の妖精
「これより先に立ち入ってはならぬぅぅっ。」
唐突にそのおっさんは俺たちの前に現れた。見た目は骨と皮だけの年齢不詳の奴だ。
「ふんっ。」
ずばっ!!
問答無用で相沢が切り捨てる。その骨と皮のおっさんは瞬く間に灰と化して消滅した。化物でもないのに珍しい人だ。
……そう言えば相沢とはあの後すぐに合流した。相沢は『加卜』を手にして、飄々と帰ってきた。(結局、岸窪の持ってきた屑鉄は役に立たなかった。)
「岸窪殿、どうやらすでに貴殿の故郷には鬼気が蔓延しているようだ。死体に魔物が宿っている。」
え? ……ってことは、さっきからしつこく出てくるこの骸骨人間みたいなのは、ゾンビとか言う奴か? ……見たこと無いから解らんかった。
「……このリビングデッ……骸骨、くっさぁぁい。」
真里が袂で鼻を押さえながらくぐもった声で訴える。我慢しろ、腐ってんだから。
俺たちが岸窪の故郷付近にたどり着いて大体三時間。さっきからしつこいゾンビ達を避けるため(臭くなければ害はない。……多分。)険しい山中にて道を失った。
「……真里、さっきも通ったぜここ。」
こう言う時、森の精霊であるエルフがいるといいのだが生憎うちのは不良品だった。
「……えっと、あ、あれぇ? ……おかしいなぁ。」
「ほら、そこにさっき喰った西瓜が転がってる。」
説明しよう。乕徹爺さんの近所で戴いた大荷物のなかには意味不明にも西瓜、柿、桜の枝、雪だるま etcと、ゆーふーに四季折々の品(?)も入っているのであーる。
「………。」
相沢が近くの木を切り倒して年輪を見ている。…………
そして、おもむろに真言を唱えはじめた。
空間を媒体としない波動が空間に歪みを生じさせる。そこからの力によって、相沢の手から数cm離れたところにオレンジ色の光球が生まれる。
「あ、相沢殿っっ!?」
「し、師匠ぉぉっ!?」
「相沢様ぁぁっ!?」
『劫火』
俺たちの止め入る間もなく轟音とともにその光球は相沢の制御から解き放たれた。
轟轟轟轟轟轟轟轟っっ!
目の前が一瞬真っ白になる。歪んだ空間が元に戻ろうとする余波が衝撃波となって押し寄せる。オレンジ色の光球は大地を溶かし、木々を焼き、遙か彼方へと消えていった。
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ………。」
「やっちゃった。」
輻射熱を生じないため、山火事にはならないが、それでも炭と灰に覆われた(百年立っても草木の一本も生えない)道が一本、新たに地図に刻まれた。
「行くぞ。」
相沢は、自然破壊も何のそのといった感じで開けた視界に満足げに微笑む。……こいつも鬼だよな。絶対。
冷えて固まった(直ぐに固まったけど)北への道を進んでいくと、急に『もや』が出てきた。遠くの方が白く霞んで見えなくなる。……何だかやーな予感がするぞ。
「師匠。これだけ大きな森だと、天狗とかが居たりしないっすか?」
相沢は辺りをぐるっと見渡して言った。
「阿呆、天狗ってのはな………。」
そう言いながら、素早く片手で印を組み、指先で大きく円を描いた。
間髪を入れず、無数の矢が俺たち(よく見ると全部相沢にだったけど。)に降り注ぐ。…が、しかし、全てのそれは俺たちに当たる前に大きく反れ、有らぬ方向へと飛んでいった。
「あんなでかい耳はしてないだろ。」
俺たちはいつの間にかエルフの集団に囲まれてしまったらしい。彼らは、森と調和して完璧に気配を消している。
「…あ、あのぅ。怪しい者じゃ有りません。話せば分かる……と思いますので、武器を収めて……えぇっ!?」
相沢がいきなり腰に帯びている刀『加卜』に手を掛ける。慌てて俺と真里と岸窪で刀を取り上げ、押さえつけて、ふん縛った。
「貴様らっ! なんの……。」
「師匠っ!! 人が折角平和的に行こうとしてるのに、火に油を注ぐような真似は止めてください。」
「そうです。相沢殿、いくらなんでも私の友を手に掛けるのは許しません。話せば解りますから。ヤスギッ! 私だっ! 三郎だっ! 攻撃を止めてくれ!」
………へ? ……なんだって?
「……えっと、岸窪殿はエルフに知り合いが?」
「えるふ…と言うかどうかは知りませんが、彼女は私の幼なじみです。」
岸窪がそう言うと、俺たちの前に一人のエルフの女性が歩み出た。
「……サブロー。彼らは………一体、何なの?」
その瞬間、真里の目は点になった。
「ヤスギ……さんって言うんですか。」
良昭が言う。
「岸窪さんとは、ど、どの様な関係なんですか?」
真里がちょっと興奮気味になって聞く。
「サブローはネ、わたしの幼なじみなのヨ。」
その岸窪を除く全員が、篝火を囲って食事を取っている。(…まぁ、正確には宴会だが。)彼は、藩に帰って来た事を報告しに森を出ている。
「そ、そうなんだ。」
「でも、私たち以外のエルフって初めて見たワ。何処の部族なの?」
ヤスギの、篝火に照らされ、黒と赤のコントラストで映えるその仕草に気を取られたのか、真里はそれが自分に対するものである事に、暫く気付かなかった。
「え、……部族?」
そっと真里に耳打ちする。
「アホ真里…この時代のエルフは、人間と共存しないで、自分らだけで生活してたんだろーが。」
「あ、そっか。」
「…? どうかした? 聞いちゃいけなかっタ?」
しなだれるようにして、真里の方に寄ってくるヤスギ。……その眼が潤んでいる様に見えるのは、酒のせいだろうか、それとも瞳に映る篝火のせいか。
「う、ううん。そんなことないけど……あたい、人間の中で暮らしてたから。」
「フーン。」
ヤスギさんは、チラッと俺の方を見て、徳利を傾けながら、
「じゃさ、真里と、良昭サンはどんな関係なの?」
がちゃーんっっ!!
「い、いきなり、何すか!」
俺は、予想もしていなかったフリに、思わず茶碗を落としてしまった。
「アララ、粗相、粗相。もう一杯いこうネ。」
…おーっとっと。
「うーん、だって、聞きたいモノ。」
もしかして、ヤスギさんって、絡み酒なんじゃないか?
「…なんて言うか、真里とは只の腐れ縁なんですけど。」
「それだけ?」
「それだけって……なあ」
「うーん? なんて言うのかな?」
「フフ……一言では、言い表せないのカナ?」
もしかしなくても、ヤスギさんって、絡み酒だな。
「あ、あたいちょっと風に当たってくるね。」
「あ、おい。」
「アララ、行っちゃったネ。」
逃げたな…真里。……トホホ。俺が一人で相手すんのか?
結局、俺たちは『鬼を退治する委員会の会員』として彼らのキャンプに泊まらせてもらうことになった。鏃を研ぐ者、刀を構える者、弓を調整する者……迫る決戦の日に備え全員が丹念に得物を整備する。勿論相沢、岸窪もだ。そんな合間の一時の事だった。
「……羊羹、かまぼこ、寒天、くす玉、額縁、沢庵、干し椎茸、チーズ入りウインナーに、こんにゃくゼリー!? 何でこんなの入ってんだよっ!?」
怪しげな風呂敷包みから出てくる物を整理しようとした良昭は、自分の考えの甘さを知ることになった。取り出した品々が山積みになっても一向に中身が減らないのだ。
「ドラ○えもんのポケットじゃ有るまいし……どんな容積してんだろ?」
いや、それ以前に、時代を無視した品が多すぎないか?
「………………。」
流石に整理するのを諦めたらしく、ため息を突いて立ち上がった。ふと、視線を真里に向ける。
「……なにやってんだ、あいつ。」
良昭は何にもせず、ただぼーっとしている真里を見てそう呟いた。
「……………………。」
真里は低木の枝に腰掛けている。満天の星空を眺めて、我此処に非ずって感じ、儚げな表情で、まるでこのまま消えてしまいそうだ。
「……そっとしておくか。」
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