+-----続学園物語-----+
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・第四章 鬼と匠と侍と…
俺たちは小道に逃げ込んでから、追ってくる侍を(余りにも卑怯な方法で)2〜3人叩きのめしたが、流石に形勢不利なので、手頃な空き家に身を潜めることにした。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそっ囲まれてる。」
「……見つかっちゃったの?」
真里が不安そうに聞いてくる。こんなとこは普通の女の子なんだよなぁ……。
「いや、それは大丈夫だと思う。」
「でも、早いうちにおちあわないと、二人とも心配してるかも。」
それが心配だ。もし、俺たちがなかなか現れないのを捕まったと思いこんだら、恐らく助けに行くだろう。……少なくとも、岸窪は。そうなると下手すりゃ、あいつらは捕まり、最悪の場合……殺されちまう。
「あたい、何にも、悪いことしてないのに……。」
「って言って、相手が納得するかよ? ……ここはな、二十世紀の日本じゃないんだ。俺たちの常識が、常識として通用しない。十七世紀の日本なんだぜ。」
なにげなく言った言葉だが、それに反応して急に真里がすすり泣きだした。
「……あ、あたいのせいだね。」
……何だ、結構気にしてたのか(全く気にしてないと思ってた。)……いくら、真里だといっても泣いてる女性を放っとくわけにもいかないし……仕方ないな。
「……ごめん、悪気はないんだ。……お前のせいでも、誰のせいでもないさ……気にするなよ。」
俺がそう慰めると、暫くして泣き声が止んだ。
「なによ…格好つけちゃって……馬鹿みたい。(笑)」
涙を拭きながら、真里は照れくさそうに言った。
「……馬鹿って、何だよ? 馬鹿って。」
「良昭クンの事よ。……他に誰がいるのよ?」
涙まじりの声で真里が言う。
「人のこと言えんのか。」
「あたい、これでも社会は学年トップだもの。」
そのくせに、留年しまくってはいるが……俺もだけど。
「社会だけしかまともな点が無いだろうが、全科目平均で俺に勝ったことあんのかよ?」
目くそ鼻くそを笑う、五十歩百歩、どんぐりの背比べ、髭長き小学生に勝るものなし。………
「うるさいわねっ! 男のくせにっ!!」
「あっ、男女差別だ。………最悪だな、お前。」
「うっ、屁理屈をぉぉ〜っ!!」
いつのまにか、本気になって、低レベルの争いが行われている時、急に二人が身を隠している家の扉が開かれた。
「勝手に人のうちに上がり込んでるのは、何者か?」
威厳のある低い声で、その老人は言った。
「べ、別に怪しいものじゃありません。」
「た、ただの通りすがりの若侍と娘子ですわ。」
老人はこちらをじぃっと見つめて、なにか言おうと口を開きかけたその時。
ばたばたばたばたっっ!
と、何人もの足音が近づいてきた。
「ここいら一体を隈なく探せっ! かくまっている奴も同罪だっ! なるべく生きたまま連れてこいっ!!」
………やばい、このままじゃ見つかっちまう。
「……お主ら、追われておるのか?」
落ちついた雰囲気でその老人は聞いてきた。
「……………。」
「……………語らぬ……か。」
俺も、真里も黙ったままだった。暫くの沈黙。…………しかし、突然戸を叩かれ、その静寂は失われた。
どんどんっ!
「なんじゃ……騒々しい。」
そう言って、その老人は表に出ていった。
「………どうしよう? 良昭クン。」
「……いざとなったら、俺が突っ走るから、ひたすらついてこい。」
そう言って、腰にぶら下げてある刀(正確には脇差し)の柄に手を掛ける。……今朝、岸窪に稽古をつけてもらったとき(相沢はぐっすり寝ていた。)初めて真剣を抜いたけれど、見かけによらず重い。(慣れればどうってことないらしいが…。)
「何事かね?」
外に出ていった老人の一挙一動に全神経を集中させる。……もし、やばくなったら、その時は…………。
「あ、これは、ここは先生のお宅でしたか。知らぬこととはいえ、とんだ失礼をば。……ところで、先生は怪しげな二人組を見ませんでしたか?」
「怪しげ? ……どんな風にあやしいのかの?」
自分が固唾を飲み込む音が大きく聞こえる。心臓の音がそれにもまして高く、まるで辺りに響いているようだ。
「若い侍と、女子だそうです。確か、女子のほうは大きな耳をしているとか。」
「ほう……耳の大きな女子と、若侍か……。」
真里が真っ青になりながら、耳を押さえ、涙目になりながら、俺のほうを見つめる。……全然気にしてなかったが、この時代、日本ではエルフが確認されていなかったらしい。(ひっそりと山奥とかで暮らしていた。人間と共存しだしたのは、明治くらいからだそうだ。)必然的に、真里の尖った大きな耳は目立つ。
「……いや、見かけなんだが、……もし見かけたら何処に連絡すればいいんじゃ?」
「白石様の所に言って下さればよろしいでしょう。」
白石……か、一応覚えておこうかな。
「ふむ、分かった。」
「では、これで。」
……そう言うと、その侍は去っていった。……それにしても、何故かくまったりしたのだろう?
老人は疲れたような表情で中に戻ってきた。
「あ、あの、どうも。」
取りあえず、礼を言う。それからだ。
「……分からない、と言った顔じゃな。」
「…………はい。」
しばしの沈黙。まだ耳を押さえたまま、真里が、キョロキョロしている。
「もういい。…大丈夫だ。」
真里の手をそっと取り、危険が去ったことを伝える。
「……その目、…お主らの目は水のように澄んでいた。人に追われるような事をする者の持つ目ではない。」
「……あのぅ、おじぃさん。」
真里が遠慮がちに声を掛ける。
「この辺に、いい刀鍛冶の人いるか知りませんか?」
「刀など、どうする気じゃ?」
鋭い指摘、ただ者ではない。……かもしれない。
「えっと……。」
返答に困る真里。……仕方ない、見本を見せてやろう。
「鬼を…。」
「!?」
突然の発言にいささか驚く老人。但し、飽くまで平然とした態度を装っている。
「鬼を切れる刀を探しているんです。」
「鬼を…切る刀……?」
老人の眉間に縦皺がよる。
「荒唐無稽な話だな。…そんなものは存在せん。もし有ったとして、どうしてお主らの様な者が鬼を切る必要がある?」
落ちついた威厳のある声でそう言った。
「鬼は、人に災いをもたらします。……私たちはその人々を救いたいのです。それには鬼を切る刀が必要なのです。」
真里が真剣な顔で力説する。
「……名誉欲しさに上っ面だけの偽善は己だけでなく、相手をも滅ぼすことになる。承知の上か?」
「偽善などではありません。ただ、無償の行為などと格好のいいことは出来ません、結局は自分の為……。」
老人は、じっと俺を見つめて考え込み、こう言った。
「……よかろう、一振りでよければ打ってやろう。」
……は? ……なんて言った?
「あの、おじいさんが打つんですか?」
鬼を切ることの出来る刀……って、誰にでも打てる物なのか?
「そうじゃ、それがどうかしたのか?」
「いや、刀匠だったんですか?」
「20年前まで現役じゃ。こうみえても、ここらじゃそこそこ名の通った刀鍛冶なんだが……まぁ、知らないならそれでもいいがな。」
そういうと、すっと家から出て行き、暫くしてから相方らしい男を一人連れてきて、奥に籠もってしまった。
「……いいのかな?」
「……さあ?」
俺と真里は顔を見合せ、ため息を付いた。
ひたすら待ち続けること十数時間。
「…ふぁぁっ……朝になっちゃった。起きなさいよ良昭クン!」
「……あと五分……むにゃむにゃ……。」
…………ぽかっ!
「うぎょっ!? ……な、なに殴ってんだよっ!」
「どさくさに紛れて、なに足絡めてんのよっ!」
あっ、ほんとだ……ま、いいや。もっぺん寝よ。
ぐーぐー………
……ぽかぱかべしぃっ!!
「何なんだよさっきから。……俺の眠りを妨げんじゃねーよっ!!」
「良昭クン。……足、どけてくれる?」
……、真里が切れてる。……やばい。
「ど、どうも……失礼をば致しました。」
反射的に平謝りしてしまう俺。……って、俺が一方的に悪いのでは無いような気がするが……。
「……ところで、相沢と岸窪はどうなっちゃったんだろうね?」
……え? あ、ハイハイ。それでは少し時間を戻して彼らのほうに視点を移してみることにしましょう。
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