+-----続学園物語-----+
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・第三章 刀は命を奪うもの
「冗談じゃない! そんな暇あるかよ。」
ここは俺たちの泊まっている旅籠の一室。先程出会った侍(岸窪三郎と言うそうだ)も一所に居る。どうやら宿をとっていなかったらしい。まあ、あの格好じゃあ、どこも泊めてくれないよな。
「何を言うんです、良昭クン……様。あなたには人情と言うものがないのですか? 困っている者同士、助け合いながら生きていくべきでしょう?」
「そりゃ、……そうだろうけどさ。どこに俺たちのメリッ……利益が有るってんだよ? それに、先生……じゃなかった、師匠だって、このまま帰れなかったら困るじゃないですか。」
相沢に同意を求めてみたが、
「お真里の言うとおりだ。この馬鹿弟子が、(べしっ)剣は人を救うための物だとあれほど言っておるのに…。」
……そんな事、初めて聞いたぞ。…ちなみに、相沢が俺の剣の師匠で、真里は相沢を慕ってついてきたどっかの村の庄屋の娘……と言うことに(取り合えず)なっている。
……はっきり言って、相沢はこの時代に来れたことを決して不幸だとは思っていない。(真里は何にも考えていなさそうだ。)それどころか、何だか嬉しそうだ。
「何とぞ、お願いいたします。力を貸して頂きたい。」
「岸窪様、お顔をを上げて下さいまし。」
真里が優しく言う。……完全になりきってる。……が、それだけではあるまい。惚れたな、真里。
「……岸窪殿、話は解った。だが、本当に鬼など現れたのか?」
そう、彼の藩では今、常識では考えられないようなことが起こっているのだ。……それは、『鬼』の出現。
「はい、その『鬼』は、背丈、三十尺余りの巨大な鬼です。その怪力で、三日かからずに山の形を変えてしまいました。我が藩では数々の侍と剣を、鬼退治のために投入したのですが、彼らの力を持ってしても『鬼』を退治出来ませんでした、それどころかいかなる名刀を持って挑んだとしても、切りつければ折れ、突き刺せば曲がり、傷一つ負わせることが出来なかったのです。」
じっと一点を見つめるようにして、彼は押し殺した声で語った。
「…それじゃあ、あんたはどうやってそいつを退治するつもりなんだ? そもそも、力を貸すもなにも…何の考えもなしで……」
「良昭様っ!」
しかし、俺の質問に彼は答えようとはしなかった。
「鬼を滅ぼす力。……例えば…そう、鬼を斬る刀…だな?」
相沢の言葉に反応して頭を上げる。
「父上の仇を討ちたい……、自害した父上の仇を討ちたい…ってなとこだろう?」
「どうしてそれを!?」
相沢は意味ありげに微笑んで、こう言った。
「そうでなければ、たった一人で武蔵まで下るなどしまい?」
「……はい。」
相沢は『叢雨』を手に取り、立ち上がった。
「良昭、お真里。行くぞ。」
「相沢殿、何処に行かれるのですか?」
「……鬼を斬る刀。欲しいのだろう?」
「俺の知っている限りでは、鬼を斬ることの出来る刀というと……源氏の名刀『髭切丸』、徳川禁忌の剣『村正』、大村加卜の十五枚甲伏の名刀『加卜』そして古鉄入道こと、長曽根乕徹の『虎徹』。」
通りを歩きながら、知識をひけらかせる相沢。
「相沢様、正宗とかは駄目なのですか?」
と、真里が質問する。余計なことを……授業中は絶対質問なんてしないくせに。
「鬼を斬るには向かないな。第一この時代では(岸窪の話から1696年だと判明した)代作されたのもかなり有って、有名無実になってしまっている。」
「へえ……そうなんですか。」
ちら、ちら、っと岸窪を横目で見る真里。……何で質問したか、何となく分かった。
「本当ならば、妖刀の類だと『髭切丸』もしくは、『村正』がいいのだが、生憎双方とも先ず手には入らん。まぁ岸窪殿の荷物を見るかぎり、『虎徹』もしくは『加卜』の神刀を手に入れることになるな。それに、もとよりそのつもりであろう?」
じゃあ、始めっからその二つだけ言えばいいだろうが。
「……はあ、……まあ。」
岸窪が面食らった表情をして答える。……そう、相沢は見かけによらず(刀の話の時だけ)異常にお喋りなのだ。……一見無口そうで、無愛想だから、相沢には女生徒のファンが多い。しかも、そういう奴に限って真実の彼を知ろうとしない。
「あ、ちょっと、そこの娘さん……。」
唐突に呉服屋の店先を掃除している美人に声を掛ける。
「あ、はっはい。……な、何でしょうか?」
このように、女性に対しての情報収集能力は高い。……あれ?
「って、師匠っ!?なに口説いてんすかぁっ!?」
「阿呆(べしっ)乕徹と加卜の住所聞くだけだ。」
……なんだか、殴られまくってないか?……俺。
「ぷっ……良昭ク…様、かわいそ。」
クスクスと真里が笑う。……ちくしょおーっ!
「……ん? …何の音だ?」
ばっぱか、ばっぱか、ばっぱか、ばっぱか、ばっぱか…
「……あ、馬だ。……生で見るのって初めてだな。」
……って感心している場合じゃないっ!!
「相沢っ!! 危ないっ!!」
真っ直ぐに相沢目掛けて突っ走る黒馬。
いきなりのことで腰を抜かしてしまう娘子。
「ちぃっ!!」
しゃんっ!!
抜き手すら見えないほどの速さ。
だっ!!
一気に馬との距離を一瞬にして縮める。そして……。
ずしゃぁぁぁっ!!
相沢の血振りと同時に、真っ赤な血を吹き出しながら天を舞う首、足を叩き伐られてのたうち回る胴体。
全てが一瞬のことだった。
「なっ、凄い。」
思わず感嘆の声を上げる岸窪。
「う゛っ………うげげげっ………。」
思わず胃の中の物をアゲる俺と真里。
「ふんっ……馬のくせに生意気な………。」
刀にちょこっと付いた血を拭き取って、鞘に戻す相沢。
「すいません、娘さん。他に咄嗟に思いつかなかったもので……折角、掃除していたのに汚してしまって……。」
「……あ、あの、いえ、助けて頂いて、…どうも。」
娘の顔色が真っ青から、真っ赤に変わっていく。
「……(けほっ)ところで、師匠。馬って、持ち主が いるんじゃないですか?」
チラッと馬の死体を見る。…あぁっ……気持ち悪りぃ……これじゃあ、当分馬刺し喰えそうにないなぁ……。
「……それも、そうだ。」
「……って、ことは。」
「ああっ!? これは一体どうしたことだ!?」
あ、やっぱり。
「ええいっ!誰じゃ儂の光彦丸を切ったのは?」
現れたのは、十数人の家来を引き連れた一人の老侍。まず間違いなくさっきの馬の飼い主だろう。んで、その家来たちの目が一斉に相沢に集まる。……当たり前か、返り血で衣が斑になってるもんな。
「貴様かぁっ! 儂の光彦丸を切ったのはっ!!」
「あ、いや、それは間違いないが、事情が事情で…。」
自信家の相沢でも流石に十数人もの侍(恐らく強い)を相手にする気は無さそうだ。
「問答無用っ! 一味諸共切り捨ていっ!!」
な、なに!? こっちにまで飛び火したってぇのか!? ……冗談じゃないぞ。こんな所で死ねるかよっ!
「馬鹿弟子っ! これをっ!」
刀ぁっ!?ちょっと待て、俺を戦力に使う気かっ!?
「お前は真里を連れてひとまず逃げろ。We appoint a inn as the place for a meeting!」
って、たった二人で戦う気かよ!? ……確かに役に立てるとは思っちゃいないが……。
「……なんか、初めて他人より英語が(ごくごく僅かに)解るって言う優越感を感じるなぁ。(しみじみ)じゃあ、行くぜ! 真里。」
「うん。」
そうして、俺たちは二人を残して小道に駆け込んだ。
「……さて、鬼退治の前に準備運動でもするかな?」
「……気が乗らないですが、仕方ないですね。」
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