+-----続学園物語-----+
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・第二章 ここは日の國、神の國
今は昔、とある飯屋で、浪人と、若い侍と、耳の尖った町娘の変わった三人組が飯を喰っていた。
「こら、手前らそんなに一杯食うんじゃないっ!」
はぐはぐ………もぐもぐ………
「何よぅっ!由克だって、一人だけ別の物頼んだくせにぃっ!!」
がつがつ………もぐもぐ………
「呼び捨てるなっ! それに俺の金だからいーんだよっ、奢ってもらってんだから少しは弁えたらどーだっ!」
はぐはぐ………もぐもぐ………
「お金ならあんのよっ、お金ならっ! 三千円も、…使えないけど。」
がつがつ………もぐもぐ………
「元はといえば加藤っ! 手前のせいだろうがっ!!」
はぐはぐ………もぐもぐ………
「それを言っちゃあ、お終いよぉっ?」
はぐっ!! ……ぐっ…う゛う゛ぅ……ずずずずぅーっ……ぷはぁーっ! うめぇっ!!
「村尾!! 一人でがつがつ喰ってんじゃねーっ!!」
「良昭クン! 一人でがつがつ食べないでよっ!」
もっ、もがもがっ!?
……ったく、こいつら。…あっ、申し遅れました。相沢由克です。このまえ村尾と話をしている時に、この阿呆真里が盗み聞きしようとして魔法を使ったのはいいんですが(いや、よくはないか)何故か時空間をねじ曲げてしまったらしく、いきなり江戸時代に跳ばされた模様。流石に魔力に長けたエルフ族(耳がちょっととんがっている程度しか人間と違わないが)の生まれなだけはある。コントロールは猿以下だが………。
……しかし、こんな時に私の趣味が役に立つとは思わなかった。私たちと共にこっちの時代に私のコレクションの一部が流れ込んできたのだ。不本意だが背に腹は換えられぬ思いで、刀を一本質に入れ、生活費に換えた。……が、こいつら二人のせいでもう二〜三本質に入れる羽目になるかもしれない。
「……ところでさ、今何年なの?」
「解らん。」
「な、何でよぉっ! 日本史の教師のくせにっ。」
そばを頬に付けたまま、ふくれる加藤。
「ほーら、ほー……うっ!? ……げほっ! げほっ!」
村尾、喰い終わってから喋れ。
「……あのなぁ、何の要素も無しでどうやって正確な判別するんだ?」
頭痛がする。どんな躾けをしたらこうなるんだ?
「聞けばいいじゃん。」
「阿呆、怪しまれるだろうが、下手すりゃ『この国のことを色々嗅ぎ回る怪しいやつら』ってことで、今居る時代によっちゃあ、お縄頂戴で市中引回しの上、獄門磔、ついでにさらし首の刑に処されるかも知れないんだぞ?」
…んなワケ無いだろ。急におとなしくなる二人。単純で助かる。
「まぁ、時間を懸けて調べてみるさ。…それよりも帰る方法を探すほうが先決だと思うがな。」
……とは言ったものの、因果律の問題上、航時法によって時空間転移系の呪文は禁忌とされ、一般では研究、開発が認められていない。つまり、我々の時代でも、世界中で時空間転移呪文を自由に使えるものは(公では)誰一人としていないということだ。ましてやこんな呪文の大系すら出来ていない昔の世界でそれを期待するのは難しい。もし偶然、この時代から抜け出せるとして、確率は0.004%未満、更に、元の時代に帰れる確率は0.00005%未満。限りなく0に近い。
「……さて、行くか?」
「どこに?」
「いくらなんでも、もう喰えないぜ。」
「誰が食べに行くって言った?」
「そーよ、貧乏だから食費を切り詰めないといけないんだからねっ! その辺解ってんの? 良昭クン。」
……お前が言うな。加藤。おまえも村尾並に喰ってるだろうが。
「……あのなぁ。他に何かあるか?…調べにいくんだよ。今がいつか? と、此処はどこか? と、どうやって帰るか? ってのをな。」
多くの人の行き交う江戸の町。その中に一風変わった男が居た。往来の人々は彼を横目では見ても、決して近づこうとはしない。しかし、見る人が見れば彼の曇りのない眼と、薄汚れた格好をしてはいるが、腰には中々の刀を帯びているのが解っただろう。そうは言っても、それ以外の彼の荷物は全く対照的に、侍らしからぬ物ばかりだったのだが。
「……さて、これからどうする?」
彼が肩から下げている風呂敷の中身は、古い鍬、釘、折れた古刀等々……がらくた市でも売れぬようなものばかり、勿論、風呂敷は錆だらけになっている。汚い、臭い、給料低い(?)
「いや、弱気になってどうする。我が藩を救うために来たのではなかったのか!」
そうだ、ここまで来たのだ。後もう少しなのだ。手に入れて、必ず……。
そう考え事をしながら歩いていると、
どんっ!!
「うわっち!」
「おうっ!」
いきなり角から少年が飛び出してきて、男に激突した。
どんがらがっしゃぁん!
と、豪快な音を立てて、逆さトリプルアクセルさながらに少年は貯水桶の山に頭から突っ込んだ。
「う゛ぎぎっ…どこ見てやがんだ。コンチクショー!!」
「あっ…と、すまない。立てるか?」
と言って、男はその少年に手を差し延べた。
「う゛……うぎゃあぁぁっ!! 足が折れてるぅぅっ!?」
「よそ見しているからだ、御仁、気にすることはない。こいつの不注意だ。」
少年の後ろから、遅れて二人が現れた。一人は背の高いがっしりとした侍。編笠で隠れてはいるが鋭い目をしている。もう一人は耳は少し長いが、高貴な雰囲気の美しい少女。 「お侍様、お気になさらないで下さいまし。」
「や……。」
「??」
「あ、いや、しかし。拙者のせいで足が折れて………。」
確かに、ぷらぷらしている。痛いだろう、かなり、うん。
その時、すっと先程の侍が少年に歩み寄った。
「馬鹿者が……ほれ、足を出せ。」
そう言われると、少年は仕方無さそうに足を出した。
侍は印を組んで真言をとなえ、片手をそっと少年の足首に当てた。
「彼は何を?」
「え?……ああ、魔法……じゃない法力を使っているのですわ。」
少女はさも、当然の如く返答をした。
「法力? あの方は法力が使えるのですか? こんな所にも術者が…」
「ええ、……私たちもそれなりに、ただ、あの方には適いませんけど。」
いや、お前らは誰にも適わないだろうけど。
「……成る程、これは…。どの位であの人のように?」
「それは…かなり……。でも、お侍様が、何故?」
そう言うと、男は急に黙り込んでしまった。
「……何か訳ありのようですね。」
ぐぉきっ!
「ぎょえぇぇっ!!??」
向こうで少年の苦痛の叫びが当たりに谺する。
「あ、あの……今、鈍い音が…それに今の声は……。」
「き、気のせいですわ。……多分。」
引きつった笑みを浮かべながら少女はそう言ったが、彼には聞こえていた。
「あ、失敗した。」
と、言う侍の呟きが……。
「……あ、ああ言う事もたまに?」
「え、…ええ。そうですね。」
しばしの沈黙。男は顎に手をやり、何か考えているようだ。
「と、ところで、お侍様、何か困っているようですが、私たちに出来ることでしたら、お力になりますわ。知り合ったのも、何かのご縁でしょうから。」
少女が言うと、男は恥ずかしそうに言った。
「……どうやら見透かされているようですね……。」
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