+-----続学園物語-----+

 


続学園物語
 

Page:1  ←前のページへ 次のページへ→P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9

続学園物語  〜刻の調べ〜
企画・原案/(冷飯食太郎改め)駄猫ほぉるず
原作/カメレオン=ポナパルト 代筆/広東風蟹玉&蟹工房スタッフの皆さん



神は時には残酷なものだ。

 鬼は時には優しいものだ。

しかし、飽くまで神は人を愛し、鬼は人を喰う。

 人はそれを忘れ、鬼を祭り上げる。

 仮初めの平穏は鬼が作り、鬼が破る。

人は、決してこの事を忘れてはいけなかった。

………そう、忘れてはいけなかったのだ。


・第一章 僕等を昔に連れてって

授業というものは大きく二つに分けられる。それは、眠くならない授業と眠くなる授業である。ここ、汎世界魔法学園の授業もその例外ではなかった。
 「で、あるからして、我々には気高い祖先の生き方に倣って、志とともに生きていかねばならない。」
ぐー、ぐー……
この学園で眠くなる授業の代表と言えば、『日本史』である。そのうえ教科担任の相沢由克(29)は、異常な刀剣マニアで、とにかくしょうもない横道に反れまくる。故にこの授業は生徒たちを憂鬱にする。そして今日も1年C組(初等部)に憂鬱な時間がやって来た。
「例えば、あの『岡崎正宗』の弟子で、『徳川禁忌の刀』を造ったとして『妖刀鍛冶』の字を科せられた『村正』の話だが………。」
ぐー、ぐー……
「良昭クン……良昭クンってば。」
お久しぶり、加藤真里(16…?)です、こんにちは。一年ぶり……じゃないかしら?本当なら高等部に入ってるはずなんだけど、相変わらず良昭クンと私は一年生をやっているんだな、これが。
ぐー、ぐー……
その良昭クンなんだけど、いつもの通り爆睡中。折角あたいが親切に起こしてあげてんのに。
「起きなってば、……ねぇ……。」
ぐー、ぐー……
 でも、起きる気配は全く無い。口から涎を垂らしているので彼の教科書及びノートは全てカパカパになっている。………エッチな本でないだけましかもしれない。
 「おい、村尾。」
ぐー、ぐー、ぐー……
相沢の伊達眼鏡がきらりと光る。
 「………………。」
あ、やば。相沢に見つかっちゃった。
つかつかと良昭クンに歩み寄り、腰元にぶら下げた一本の日本刀『(自称)叢雨』に手を掛け、鐺で小突いた。
「おい、村尾。…そんなに俺の授業がつまらんのか?」
ぐー、ぐー、ぐー、ぐー……
相沢の眉間に青筋が浮かぶ。ワナワナと震えて、今にも鯉口を切っちゃいそうな雰囲気。事実、彼の手に掛かって永遠の眠りについた生徒は数えきれない。(世間に漏れないところに学園の恐怖が潜んでいる)
「村尾。貴様……。」
 がたがたがたっ………
 良昭クンの周りの生徒が机ごと離れていく。ああ、これでもう永遠に会うことはないわね。楽しかったわ、成仏するのよ良昭クン。あたいは一応、起こしたんだからね、起きなかった良昭クンが悪いのよ。
「ふぁっ……っくしょぉぉぉんっっ!!つあぁぁっ、べらぼーめぃっ!」

 斬っ!!!!

おっさんくさい嚏を一発かまして、眠りから目覚めた良昭クン。反射的に首が持ち上がり、さっきまで頭のあった場所を鋼の刃が通過する。…おおっなんて運のいい。
「なっ、なっ、……な、何すんすか、せ、先生。」
机が真っ二つになり、床までぱっくりと切り裂かれている光景を見て良昭クンは椅子から転げ落ちた。
「やっと……起きたか、村尾。」
相沢は刀を鞘に収めながらゆらりと立ち上がり、床に尻餅ついている良昭クンを見下ろして言った。
「後で社会資料室に来い。……授業を続ける。村尾は加藤に席を貸してもらえ。」
そう言うと、何事もなかったかのように淡々と授業は続けられた。
仕方がないので、良昭クンに机を半分貸してあげる。
 「……なぁ、真里……。」
いつになく真剣な表情で良昭クンが(ずずいっと)寄ってきた。
「な、何?…だ、駄目よ、授業中なのにそんな……。」
 とりあえず周りを見渡してみる。……誰も見ていない。……んんっ……何だか梶井基次郎ティックな気分。……あれ?梶井基次郎って誰だったっけ?……まぁ、いいか。
「……俺、寝るからさ、見つかりそうになったら……頼んだぜ。」
 と、言うが早いか寝息を立ててぐっすり。……馬鹿は死ななきゃ直らないか、……昔の人はイイコト言うなぁ。…ラク顔するぞ。


 放課後、俺は言われた通り社会資料室に行った。…社会資料室っても相沢の私室と化してもう五年。所狭しと刀、槍、脇指、短刀、薙刀、剣、太刀…云々。ありとあらゆる種の日本刀(相沢が言うには槍でも日本刀と言うのだそうだ。)が並べられている。……ま、アニメのビデオが山積みになって、足の踏み場が無いよりはましか。
「あのぅ…先生、村尾です。」
部屋の前に立つだけでツンと、鉄の匂いがする。……この匂い…なんでだろう? 口の中に、血の味…広がるんだよな。
 「ああ、入れ。」
 良昭が戸を開けると、相沢は、鉄独特の匂いのする部屋の中で、油を塗った刀を仕舞いながら。
 「よく来たな、まあ、そこに掛けろ。」
と言って、茶を差し出した。伊達眼鏡の下の目が鋭く光る……不気味だ、もしかしたらこの茶に毒でも盛っているんじゃねーか?
「あの、先生。……授業中に寝てたことは、……その、悪かったと思います。反省しています。」
俺がそう言うと、相沢は鼻で笑った。
「嘘をつけ、おまえに反省するほど高等な知能はない。」
「はぁ?」
「それにその事で呼んだわけではない。おまえの祖父は確か……村尾流柔術三代目の村尾靖裄殿だったな?」
「はぁ、まぁ、そうらしいっすけど。それが?」
おいおい…まさか、んーなことのために俺を呼んだってーのか? 学生ってのは大事な青春を満喫しなきゃなんねーんだよ。早く帰って見たい番組があんのに。この剣術バカ……良昭、心の声(涙)。
「熊をも一刀のもとに仕留めるという、伝説の剣豪……村尾靖裄。」
「……そうなんすか。」
知るかぁっ! 何でもいいから早くしてくれ。今日に限ってビデオ予約すんの忘れてんだから、電車に遅れらんねーんだよっ!
「俺の真剣を躱したのはおまえが初めてだ。流石、村尾靖裄殿の孫……といったところか。」
「は、はぁ……。」
ちょ、ちょっと待て。なんだか話がややこしくなってきたぞ。……つまり、相沢は俺が祖父さんに稽古でもつけてもらってて、だから自分の剣が躱されたって思ってんのか? ……偶然避けたって知ったら、どうなる?
「どうだ? 村尾、俺と一緒に国立武道館を目指さないか?」
「あっ、いえ、う、うちの剣は本当は表に出てはならない影の剣で、祖父さんは固く門外不出を定めていましたものでして、はい。」
無茶苦茶な言い訳だ。とにかく今の良昭の頭の中には、この場を一秒でも早く抜け出して、7時からの『バケツでごはん』を見ることしかない。
「ほう、秘伝……か? 確かに、村尾靖裄の不敗伝説は有名ではあるが、実際にどんな技を使ったとか、どんな有名剣客を倒したとか言う話は聞かないな。」
知るかよ…んなこと。大体、祖父さんが強かった…なんて話自体、今まで聞いたことも無かったんだからな。俺自身は真剣は愚か竹刀でさえ触ったことがないってーのに。
 「村尾の剣は、天下を揺るがす力を持つがゆえ、その切っ先もまた、天下を揺るがす力にのみ向けられなければならない(嘘八百)……と祖父はいつも言っていました。……って事で、俺はこれで……。」
「む…そうか? しかしな、村尾……。」

 ぴきっ……

 …ん? ナンだ?

 ぴしぃぃぃぃんっ!

 え、あ、あぁぁぁっっ!?……この展開は……まさか…。

 どうぅぉぉぉんっっ!!

俺の真後ろで轟音が鳴り響き、次の瞬間、

 めきょっ!!

 俺の頭に何か激突した。目の前が歪んで、意識が遠のいていく。……あーあ、仕方ねーな、後で新聞の皆さんコーナーでビデオ取った人探すっきゃねーな。……トホホ。

「どうした!? 何の爆発だ?」
「なんでも、また、加藤の仕業らしいぞ。」
生徒や教師たちが爆発現場、つまり社会資料室前の廊下に集まってきた。しかし、そこには、直径約6mのクレーターと、半壊した社会資料室、そして壊れた相沢のコレクションしか残ってはいなかった。
 「しかし、この程度で済んだのは幸運と言うべきですかね。」
 「確かに。…ウチにはもう校舎を建て替える余裕は無いですからね。」
「くわばら、くわばら。」

Page:1  ←前のページへ 次のページへ→P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9


Return : Novels Top