「とりゃぁぁっ!しっぽトルネードっ!!(ぺちぺちぺち)」 「んがぁぁぁっ!?」 「ひっさぁぁつ!肉球アタックぅぅぅ!(ぷにっ)」 「ああうっ、と、とろけそうな予感…って何させるんだっ!?」 ---------- 「実は、ボク、親の顔見たことないんだ。」 「は、はぁ?」 確かに猫川の家に大人が出入りしているところを見たことがない、とかいう噂は聞いたことはあるが…… 「他の人の顔ならいっぱい見てるよ!看護婦さんの顔とか、孤児院のやさしいおばさんの顔とか……」 精一杯明るく装ってしゃべろうとしているけれど、徐々に声がかすれていく。 「無理に……無理に、話さなくていいんだぞ」 「ううん……なんか、盛り下がっちゃうけどさ、聞いて、おねがい。」 「……ああ……」 そこに、毎日肉球アタックだかしっぽトルネードだかをぶちかましてくる、いつもの猫川の姿はなかった。 「これは後で聞いた話だけど、近くの病院で、ボクは生まれたんだけど……その次の日、突然親が姿を消しちゃったんだって。理由は簡単、ボクが化け猫だって……ふつうの人間じゃないって……だから逃げちゃったんだと思う」 「まさか……で、その親の行方とかは。」 「……この間……偶然……見つけたの。ほら……修学旅行に行った先で、しばらく立ち止まってたでしょ。」 「ああ。」 「猫川、なんて苗字はそんなにないし、そっちのほうに住んでいるかもしれない、とかいう話も聞いたことがあるし。」 「で、でも……あの家族……」 「そう。中庭で子供と遊んでたでしょ、親が……まだ偶然同姓だったっていう可能性もあるけど、もしあの親がボクの親だったら……」 「……………」 何も言えない。言えるはずもない。 「確かに、優しい人もいたよ、しばらく精密検査のために入院してた大学病院の主治医の先生とか、そこで病室が隣だった由利さんとかいう半身不髄の女の子とか……でも……人間って、悪魔にもなれるのかなって。」 「おい……」 「ねぇ、本当は気持ち悪いんでしょ?」 「はぁ??何がだよ。」 「普通の人間に猫みたいな耳とか、しっぽとか、生えてるわけないもんね。うん。気持ち悪いよね、うん。」 「……ちょっと待てよ……」 「一部にネコミミ萌え〜とか言ってる人とかもいるみたいだけど、それはイラストとかの架空の世界での話だし。本当にそんな人間がいたら、まわりの人に逃げられても仕方ないよね。うん。」 「待てよ……」 「だからね、ボク、決めたの。将来誰かと結婚して、ボクみたいな猫耳な子供をいっぱい作って、芸能人にして、気持ち悪がる人たちを見返してやるんだ……」 「ちょっと待てよ……待てって言ってるだろ……!」 語調を荒くして言ったオレの言葉に、一瞬びくりとする猫川。 「な……なに……」 「そのバカ親が間違いだ。気持ち悪がる人はみんな間違いだ。」 「……え?」 「そうだなぁ、確かに芸能人にして人気が出れば……いっそ子供が、なんてケチくさいことも言わずに、自分がなってみるというのはどうだ?」 「あ……」 「確かに、人間ってのは自分と違うものが憎かったり、恐かったりするのかもしれない。でもその、他の人と違う、ってところを逆手に取って職業にしてる人達といえば……」 「ホントだ……」 「……ほら、猫川の言ったことは、理屈に合ってる。それに……」 「それに?」 「気持ち悪がる人ばかりじゃないんだ。猫川が好きな人だって、いる。」 「どうしてそんなことをはっきり言え、………も、もしかして……」 しばらく首をかしげていた猫川だったけれど、オレの言葉の真意に気づいたらしい。 「そう……」 「秋人ってネコミミ萌えだったんだぁ〜」 「うっ、、、な、なんだよそれっ、、、」 がくっ、と、肩を落とすオレ。 「明日になったら高校のみんなの噂になってるかもね〜」 「を、おい!ちょっと待て!そりゃないだろ!そうじゃなくて、オレは……」 ぱかっ。と、言いかけたオレの口にフタをする猫川。 「はい、そこまで。あとはいろいろ解決してからのお楽しみ、ね。」 「……もご、もごもごもご」 「冬休みになったら、実際にその猫川さん家に行こうと思うの。本当のところを確かめに。」 そして、口にフタをしていた右手をはずしたかと思うと…… 「いっしょについてきて、くれるよね。」 と言うやいなや、手でオレの頭をかっくんと手前に倒して…… 「あ、やっぱり〜」 「ちょ、ちょっと待てよ、誰もオレが自分の力でうなづいたわけじゃ……」 「決まり決まり〜」 「お……おい……全く……これだから……」 と、渋々うなずきつつも、元気な猫川に戻ったのを見て内心ほっとしていた。 後は、本当の親が誰か確認するだけだ。